地域経済から日本の再生を考える
論文2009年夏号
野村證券金融経済研究所経済調査部 桑原 真樹
目次
- I.はじめに
- II.内需主導成長に向けて
- 実現できなかった内需主導成長
- 地域経済からの再生という視点
- III.地域経済からの日本再生シナリオ
- 日本の都市の現状
- コンパクトシティ構想
- コンパクトシティの経済効果
- 農業の再生
- 林業の再生
- 地域金融の活性化
- IV.地域再生に必要なもの
- 大きなビジョンの共有
- 制度改正
- V.おわりに
要約と結論
- 今回の世界金融危機において、その震源地ではなかった日本経済も大きな影響を被ったのは、日本の経済成長が過度に輸出依存型であったためであろう。今後はこれまでのような外需の牽引は期待しにくく、内需主導の経済成長を実現させる必要性がかつてなく高まっていると言える。経済が成熟する中では、従来とは根本的に異なる政策を打ち出す必要がある。
- 新たな視点として、地域経済での取り組みに目を向けたい。いち早く人口の減少・高齢化に直面している日本の地方都市は、それらに対応するため、郊外に拡散してしまった人口をまちなかへと呼び戻す「コンパクトシティ」構想を進めている。人口がまちなかに集積すれば、地場産業としてのサービス産業・中小企業の生産性が向上し、ひいては地域全体の経済活性化につながると考えられる。
- コンパクトシティが推進され、居住地が郊外へと無秩序に拡大する動きが止まれば、農地の集約が比較的容易になり、作付面積の拡大を通じた農業の生産性向上のきっかけともなり得る。都市と農村の改革に併せ、山林の管理も徹底することで、林業を再生させることも視野に入ろう。これらの改革を行うためには、地域金融機関を主体としたファイナンス経路の確立が欠かせない。
- 地域金融とともに都市・農村・山林が活性化されれば、地域経済の中でビジネスチャンスが生まれ、設備投資や個人消費が促進される。地域経済がそれぞれに活性化されれば、それらの総体としての日本経済の内需主導成長が達成されよう。このシナリオが実現されるためには、地方分権や国土の有効利用を進めるための制度改正が有効と考えられるものの、最も重要なのは、地域経済からの日本再生というビジョンが広く共有されることだ。