日本版ESOP(従業員自社株保有制度)の登場とその役割
論文2009年秋号
野村證券IBビジネス開発部 橋本 基美
目次
- I.はじめに
- II.従業員の自社株保有を促す仕組み
- 従業員へのインセンティブ報酬
- 伸び悩む従業員持株会の実態
- 限定的なストック・オプションの効用
- 米国ESOPとは
- 諸外国の従業員自社株保有制度
- III.日本版ESOP登場の背景
- 株主構造の急激な変化
- 世界的な敵対的買収の増加
- 株主還元で急増した自己株式への対応
- IV.日本版ESOPとは
- 2類型ある日本版ESOP
- 信託型従業員持株インセンティブ・プラン(E-Ship®)の仕組みと効果
- 日本版ESOPの主な論点
- V.日本版ESOPをめぐる今後の展開
- 金融庁が促す株式持合い解消の動き
- 民主党の「公開会社法(仮称)」の影響
- VI.おわりに
- 日本版ESOPの導入に当たって
- 企業活力増進と市場の活性化への期待
要約と結論
- 従業員による自社株保有を促す制度整備が進んでいる。2008年10月の追加経済対策で「日本版ESOP導入促進のための条件整備」が掲げられ、経済産業省や金融庁がそれに対応した施策を打ち出している。
- 日本版ESOPが登場した背景には、(1)株主構造の急激な変化、(2)世界的な敵対的買収の増加、(3)株主還元で急増した自己株式への対応、があげられる。
- 日本版ESOPには、(1)従業員持株会活用型と、(2)自社株退職給付型があり、それぞれ10社、5社の導入事例がある。(1)の代表的なスキームである信託型従業員持株インセンティブ・プラン(E-Ship®)には、従業員へのインセンティブ付与、従業員の株主化促進、持株会への自社株安定供給といった効果がある。
- 金融庁は株式持合いに関し情報開示を進めていくことを表明しており、民主党も「公開会社法」構想で従業員ガバナンスを強めていく方向であることから、日本版ESOPの活用が今後益々拡大することが考えられる。
- 日本版ESOPを有効に活用していくには、(1)企業の財務状況や株価・借入金利の水準、(2)従業員の福利厚生と株主への利益還元のバランス、(3)その他の株価連動報酬制度との比較、等を総合的に勘案した上で導入し、従業員の資産形成、ひいては企業価値向上に資する施策として長期的に安定した運営がなされるべきものとの留意が必要だろう。