日本のコーポレート・ガバナンス改革と議決権行使
論文2009年秋号
野村證券金融経済研究所投資調査部 西山 賢吾
目次
- I.はじめに
- II.意思疎通の拡充を示した2009年株主総会
- 2009年株主総会の概況
- 全体的には議案への反対が減少
- III.主要議案の賛否状況
- 役員選任
- 買収防衛策
- 役員報酬、退職慰労金
- 剰余金処分
- 定款変更
- 株主提案
- IV.個人投資家の議決権行使状況
- V.2010年株主総会における注目点
- 引き続き注目される役員選任
- 買収防衛策承認のハードルは高まる
- 役員報酬、退職慰労金は決定プロセス重視へ
- 剰余金処分は2011年の注目点に
- 「説明」重視の定款変更、株主提案
- VI.ガバナンス改革の鍵は情報開示の拡充
- VII.おわりに
要約と結論
- 2009年開催の株主総会においては、世界的な経済環境の影響により、多くの企業で業績が悪化したことから、投資家の議決権行使状況が注目された。しかし、結果を見ると、機関投資家、個人投資家とも議案に対する反対は一部議案を除き増えておらず、また会社側議案の否決や事前の取り下げも総じて少なく、全体的には「平穏」に終了した。これは、近年進んできた企業と投資家との意思疎通の拡充が要因の一つであり、評価されるものであると考える。
- 企業と投資家との意思疎通の拡充は、わが国企業のコーポレート・ガバナンスがよりよい方向に進んでいる証左と考えられるが、更なる改善を求める声も少なくない。そのため、コーポレート・ガバナンスの改革に関する議論が現在進められているが、このうち、2010年株主総会との関連で注目されるものとしては、役員選任、特に社外役員の登用とその独立性への考え方と、株式持ち合い状況の開示が挙げられる。役員選任については、「なぜ社外取締役、社外監査役として適任であるか」についての説明と開示をより充実させることが求められる。一方、持ち合い状況の開示については、企業と投資家との間で株式保有に対する議論を深め、中期的には真に保有する意義のある株式のみを保有することにつながると考えられる。
- 株式持ち合い状況の開示だけではなく、機関投資家、企業側双方に対する議決権行使結果の開示など、現在進められているコーポレート・ガバナンス改革は、その多くが情報の提供、開示に関するものである。これらの改革は、対話・説明を通じた企業と投資家の聞の意思疎通をさらに深めると期待されるとともに、わが国のコーポレート・ガバナンスに対する信認をも高めることにもつながる。