「危機」後の世界における日本
-優位性と課題-
論文2010年夏号
野村證券金融経済研究所投資調査部 阪上 亮太
目次
- I.はじめに
- II.世界的な経常収支不均衡の累積と調整
- 主要国での住宅ブームと経常収支不均衡
- 不均衡の調整はどこまで進んだのか?
- III.日本の経験から考える「危機」後の世界
- 1990年代の日本の経験
- 「失われた10年」をもたらした要因
- 1990年代の日本と各国経済の現状
- 住宅ブームの崩壊と潜在成長率の関係
- IV.「危機」後の世界における日本
- 世界経済の牽引役としてのアジア
- 日本のアジア向け輸出構造の変容
- 本社企業とアジア子会社の取引関係
- 対アジア輸出における日本の優位性
- 日本の「輸出競争力」
- 日本の相対輸出パフォーマンスと為替
- V.おわりに
要約と結論
- 2008年後半以降の「世界同時不況」は、主要国での住宅ブームを背景に拡大した世界的な経常収支不均衡の調整過程と捉えられる。現下では、全体としてみると経常収支不均衡の調整はほぼ終焉を迎えたと考えられる。
- 世界的な経常収支不均衡の調整が終わったからといって、ただちに「危機」前の世界に戻るわけではない。1990年代の日本の経験に基づくと、住宅ブームの崩壊や金融危機後に訪れる循環的な景気回復と、中長期的な平均成長率の低下とは分けて考える必要がある。日本の「失われた10年」と言われる長期低迷は後者を指しており、この背景には、住宅ブームの崩壊を契機とする経済主体の期待成長率の低下、バランスシート調整、生産性・潜在成長率の下方屈折があったと考えられる。
- 2000年代の住宅ブームにおいては、多くの国で、1990年代の日本を上回る住宅価格上昇、バランスシートの膨張が生じていた。これらの国々は、今後循環的に景気が回復するとしても、中長期的な平均成長率は1990年代の日本と同様に下方屈折する公算が大きい。
- 「危機」後の世界においては、住宅ブームの崩壊を経験しておらず、潜在成長率の高い中国等のアジア経済が世界経済のけん引役を担うと考えられる。日本は輸出に占めるアジア向け比率が高く、また中国や東南アジアと輸出構造が補完的であるという点で、「危機」後の世界において一定の優位性を持っていると考えられる。
- 日本は一般機械や輸送機械、鉄鋼等の主力輸出品では依然として高い「輸出競争力」を保持している。逆にいえば、これらの業種での改善余地は限られている。「危機」後の世界における優位性をより確かなものとするための日本の課題としては、(1)近年「競争力」が失われつつある電気機械の競争力向上、(2)観光誘致や文化輸出を通じ、非製造業がアジアの高成長を取り込むこと、が挙げられる。