国際的な金融制度改革の動き

論文2011年春号

野村資本市場研究所 小立 敬

目次

  1. I.はじめに
  2. II.バーゼルIII:包括的な銀行規制改革
    1. バーゼルIIIに先行するバーゼル2.5
    2. バーゼルIIIの狙い
    3. 自己資本規制の強化
    4. 資本バッファーの導入
    5. レバレッジ規制の適用
    6. 流動性に関する最低基準の適用
    7. バーゼルIIIの段階的な実施
  3. III.システム上重要な金融機関に係る国際的検討
    1. トゥー・ビッグ・トゥ・フェイルへの対応
    2. G-SIFIsに対する政策的枠組み
  4. IV.システミック・リスクの再発防止に向けた欧米の取り組み
    1. 米国・スイスのSIFIsに関する取り組み
    2. 銀行の業務範囲の制限
    3. 秩序だった破綻処理の枠組みの整備
    4. 金融セクターの社会的な貢献
  5. V.おわりに

要約と結論

  1. 世界的な金融危機を受けてG20サミットのイニシアティブの下で、金融危機の再発防止を図る国際的な金融制度改革の取り組みが始まった。G20首脳は、2008年11月のワシントン・サミット以来改革の方向性を検討してきたが、足許では改革のアジェンダを検討する段階から規制を適用する段階に変化しつつある。
  2. バーゼル委員会は2010年12月にバーゼルIIIを公表し、包括的な銀行規制改革を定めた。バーゼルIIIの自己資本規制では、自己資本の量・質的な改善、国際的な整合性の確保を通じて、資本の損失吸収力を向上することが重要な課題となっている。最低基準は、普通株式等Tier1比率(いわゆるコアTier1)が4.5%、Tier1比率が6%、全体の自己資本比率は8%に定められた。また、自己資本規制は質的にも大きく改善されている。損失吸収力を高めるため、Tier1はゴーイングコンサーン・キャピタルと位置づけられ、Tier1及びTier2には、実質破綻時の損失吸収力を高めるための新たな要件が求められる。さらに、銀行が金融機関の資本商品の保有を難しくするダブルギアリング等の制限強化が図られる。
  3. また、バーゼルIIIでは新たな枠組みとして、マクロ・プルーデンス政策上の観点から、資本保全バッファーとカウンターシクリカル・バッファーの2つの資本バッファーが導入される。その他、金融危機の背景にあった過剰なレバレッジを抑制することを目的としたレバレッジ比率や、危機では資金流動性の枯渇により市場で大きな混乱が生じたことから、流動性リスクの強化を図る資金流動性に関する2種類の最低基準が導入されている。
  4. そして、新たな議論として、システム上重要な金融機関(SIFIs)に対する政策措置が国際的なレベル、又は各国レベルで議論されている。SIFIsには、資本の損失吸収力のさらなる強化や回復・破綻処理計画(リビングウィル)の策定を含む規制強化が図られるほか、秩序だった破綻処理制度の整備の必要性も認識されている。システミック・リスクを生じる大規模金融機関には規制環境がさらに厳しくなることになる。
  5. G20サミットのイニシアティブの下で進められてきた国際的な金融制度改革は、改革アジェンダを検討する段階から規制の適用を図る段階に入ってきている。規制強化の影響を見極めるには、各国でどのような形で金融制度改革がルール化されていくのかを注視していくことが必要である。