金融商品会計の見直しの動向
論文2011年春号
野村證券金融経済研究所投資調査部 中西 弘士
目次
- I.はじめに
- II.IFRSの最新動向
- 各国におけるIFRS導入状況
- IASBの基準開発の動向
- 日本におけるIFRS導入とその課題
- III.金融商品会計の見直しの影響
- 金融危機対応
- IFRS9の考え方
- ビジネスモデルの要件とは
- キャッシュ・フロー特性の要件とは
- 日本企業の業績への影響
- メガバンクでの影響試算
- その他の論点
- 米国における会計基準開発の動向
- 日本のコンバージェンスの方向性
- 株式市場への影響
- IV.おわりに
要約と結論
- 2011年は国際財務報告基準(以下IFRS)にとって、特別な年である。米国の規制当局は2011年中にIFRSの導入の判断を行うことを予定している。また、2006年2月に締結された財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)と共同での会計基準開発の期限が2011年となっており、主要な会計基準の見直しも2011年末までに終了する予定である。
- 日本では、2012年を目処にIFRSの導入の判断を行うことになっている。IFRS導入にあたり、大きな論点の一つとなっているのは、単体財務諸表への適用の問題である。日本において、金融証券取引法上の単体財務諸表の開示は会社法や税法との関係があるため、仮に単体への適用となると、法令の改正や各利害関係者間での調整が必要となる。
- 金融危機対応に端を発した金融商品関連の会計基準改革が、2011年6月までの最終基準化に向けて急ピッチで進んでいる。中でも、債券や株式に代表される金融資産に関する評価・測定モデルの見直し、新たな減損モデルの提案、ヘッジ会計の簡素化などを定めた金融商品会計の見直しの影響は大きく、その考え方を理解した上で、企業業績や株式市場への影響を考える必要があろう。
- 実際に金融機関へIFRSを導入する際には、原則ベースの基準を現実的な実務に落とし込む必要がある。実際に適用する際のマニュアルの作成や導入までの人的、金銭的コスト負担など、今後更に具体的に議論していく課題は多い。また、実務的な負担を軽減するため、各資本規制法とIFRSとの関係性についても、同様に議論していく必要がある。IFRS導入を実効性のある有意義なものにするためには、各関係者がIFRSを熟知し、その改善に向けて、それぞれの立場で積極的に情報発信していくことが重要である。