東北復興NAVi「ネクスト・デザイン」が拓く21世紀の都市像
論文2011年夏号
野村證券金融経済研究所経済調査部 和田 理都子、桑原 真樹
目次
- I.はじめに
- II.キーワードは「ネクスト・デザイン」
- 「居住地」のネクストデザイン:コンパクト化を目指して
- 重要となる「人口密度を高める」という視点
- コンパクトシティと産業の効率化
- コミュニティを創出するデザイン
- 環境を志向するデザイン
- 防災都市としてのデザイン
- 東北復興の「ネクスト・デザイン」
- III.新たなまちづくりに必要な資金
- 東京市政要綱
- マスダール・シティ
- 米国コロラド州ボルダー市
- 日本のスマートシティ構想
- Fujisawaサスティナブル・スマートタウン構想
- IV.おわりに
要約と結論
- 東日本大震災は、日本経済に大きな被害を与えた。目先の問題解決だけでも多くの困難を伴うであろうが、我々は、より大きな視点ももたなくてはならない。もとより日本経済は、震災以前から多くの問題に直面していた。新たな東北は、「元通りを再現する」だけでなく、次の時代を見据えて積極的に変わらなくてはならない。そんな願いを込め、東北復興に向けた我々のビジョンを、NAVi(Nomura Active Vision)と呼びたい。
- 日本の都市はこれまで、経済活動の「拡大」にはうまく対応してきたが、人口減少をはじめとした経済活動の「縮小」への対応力に欠けていた。新たに復興される東北の都市は、自らを根本的なデザインの次元から見直して、来るべき世界へと備えなければならないだろう。東北復興NAViのキーワードは、「ネクスト・デザイン」だ。
- 高齢化に対応するデザイン:高齢化が進む日本においては、徒歩で暮らせるデザイン、つまり居住地の人口密度を高め面積を限定する「コンパクトシティ」の実現が必要である。
- 産業を効率化させるデザイン:コンパクトシティを実現させ、都市の無秩序な郊外化に歯止めがかかれば、郊外では農地の大規模化が容易になり、農業の活性化につながる。
- コミュニティを創出するデザイン:コンパクトシティ実現のためには、自動車交通量の抑制などを通じ地域コミュニティの自然な形成を促すことで、魅力的な都市を作り上げることが必要である。
- 環境を志向するデザイン:太陽光パネル・蓄電池を各家庭に設置し、都市全体を巨大な発電・蓄電システムとみなす。計画的なコンパクトシティは、スマート・グリッドを利用した「スマート・シティ」とも相性がよいはずだ。
- 防災都市としてのデザイン:再度の津波被害を防ぐべく、被災した都市は高台へと移転すべきであろう。海岸に設置せざるを得ない港には、津波が来たときのために避難タワーを設置する。
- 「ネクスト・デザイン」に基づくまちづくりにかかる費用は、それがどの程度抜本的なものかに依存する。電力系統の効率化のみなら住民一人当たり10~20万円程度かもしれないが、住居も含め全く新しい都市を建設するには一人当たり数千万円必要となろう。