中期経済見通し2012
-2010年代後半の痛みを転機に変えられるか-

論文2012年新春号

野村證券金融経済研究所経済調査部、投資調査部 和田 理都子、大越 龍文、西山 賢吾、吉本 元、桑原 真樹、郭 穎

目次

  1. I.はじめに
  2. II.日本経済の転機を探る
    1. 労働力不足の時代
    2. 中期経済見通し
    3. 日本はコンテイジョンに耐えうるか?
    4. 財政危機のリスク
    5. 農業の担い手
    6. エネルギー・食料の供給不安
  3. III.日本は変われるか
    1. 外国人労働者をめぐる議論を例に
    2. 株式市場の魅力と信頼を取り戻すため
    3. 地域発の経済活性化に向けて
    4. 「アジアナイゼーション」の息吹
  4. IV.おわりに

要約と結論

  1. いわゆる「失われた20年」は、日本が改革を先送りしてきたことの結果でもある。人口減少は労働需給を逼迫させ、2010年代後半に日本は低成長+インフレという「痛み」を意識する必要がでてこよう。また、政府債務を圏内資金でファイナンスすることが困難になれば、財政危機が顕在化しかねない。
  2. 高齢化は圏内産業、特に担い手の高齢化が進む農業を弱体化し、圏内生産体制を荒廃させる危険性もはらむ。世界に目を転じれば、人口70億人時代、新興諸国の需要増加といった背景から、穀物価格やエネルギー価格の高騰も視野に入る。原油価格については、2020年に1バレル150ドルとの試算結果となった。
  3. こうした痛みに直面する日本は、改革を進められるのだろうか。外国労働者受け入れを巡る過去の議論は、反対意見が根強い事柄でも、条件さえ揃えば改革が進み得ることを示唆している。外国人に選ばれるためには日本が魅力のある国でなければならない。まずは、日本の資本市場へ信頼を取り戻す努力が急務となる。投資家の要請に真摯に答え、ROEの向上、ガバナンス体制の整備と機能拡充を通じ、国際基準に照らして理解されやすい状態に企業自ら改革を進めることが求められる。
  4. 2000年代後半の世界金融危機を受けて、圏内企業は生産体制の再編、工場の海外移転など競争力維持に向けた改革を進めた。各都市がもつ産業力を測り、その強みと課題の把握を通じて、地域と企業が一体となって地域の独自性を高めていけるかが注目される。日本企業は既にアジアナイゼーションを視野に入れた新たな生産・販売ネットワークを模索し始めており、アジアの一体化が加速している。
  5. 変化を厭う姿勢では、大きな痛みが2010年代後半から顕在化しよう。処方筆は出揃っている。高齢化・人口減少が進む中、世界の先陣を切って成熟経済の新たな成長の可能性を示せるかは、今、我々が改革に着手できるかにかかっている。