新たな金融規制思想は安定と繁栄をもたらすのか
論文2012年春号
野村資本市場研究所 淵田 康之
目次
- I.危機を経て台頭した新たな金融規制思想
- 直接的原因への対応を超えた改革
- TBTFの終罵
- ノンバンクを含む健全性規制
- マクロ・プルーデンスの重視
- II.危機予防の枠組み
- 損失吸収力の向上
- 流動性規制
- SIFIへの追加規制
- 業務規制と規模規制
- III.秩序ある破綻の枠組み
- 破綻処理制度の強化
- リゾルバビリティの向上とRRP
- ベイルイン
- クロスボーダー・リゾリューション
- IV.早期介入の枠組み
- 早期是正の失敗を踏まえる
- 新たなストレステスト
- 危機予防の観点からの介入
- 秩序ある破綻の観点からの介入
- V.ノンバンク規制の動向
- ノンバンクSIFI
- シャドーバンキング問題
- VI.マクロ・プルーデンス
- 新たな行政組織の設置
- さまざまなツール
- カウンター・シクリカル・バッファー
- 金融政策等との関係
- 国際協調体制
- VII.新規制の問題点
- ミクロ・プルーデンスの偏重
- 早期介入の実効性と正当性
- ベイルアウト否定の非現実性
- 伝統的銀行業重視と市場機能軽視
- 金融政策への負担とその弊害
要約と結論
- 金融危機後の新たな金融規制思想として、(1)金融機関はいざという時、救済せざるをえないから規制するのではなく、救済しないから規制、(2)ノンバンク発のシステミック・リスクにも対応、(3)個別金融機関の健全性だけではなく、マクロ・プルーデンスの観点が必要、の3点が注目される。
- 金融機関救済が否定される結果、危機の予防は一段と重要となり、各種の規制は格段に厳格化される。また金融行政は、金融機関を破綻させないというより、破綻しても混乱を生じさせないことを目指す時代となった。経営への早期介入も重視される。
- 新たな金融規制の問題点としては、まず、依然として自己資本比率規制を中心とした個別金融機関の健全性追求が中心となっていることがある。行政の早期介入が機能すれば良いが、その実効性と正当性には疑問がある。
- 各国の破綻法制の相違が残る中、個別金融機関の救済否定は、かえって危機を悪化させかねない。また新規制は、銀行業の公益事業化、そして資本市場取引の抑制を通じて、実体経済に悪影響を及ぼす恐れがある。
- 金融機関の救済否定への拘りや高水準の自己資本比率の要請が、欧州金融危機を拡大させた。その結果、金融政策に過大な負担がもたらされ、この副作用が懸念される事態が生じている。極めて厳格な金融規制と極めて寛容な金融政策というポリシーミックスは、新たなグローバル金融リスクにつながりかねないのである。