会社法制の見直しと企業統治
論文2012年春号
野村證券金融経済研究所経済調査部 西山 賢吾
目次
- I.はじめに
- II.会社法制見直しの経緯と主要論点
- 見直しに至る経緯と方向性
- 会社法制見直しの主な論点
- III.「企業統治の在り方」の主要論点
- 社外取締役の選任義務付け
- 社外取締役、社外監査役の独立性要件
- 投資家から見た社外取締役
- 監査・監督委員会設置会社制度
- その他の論点
- IV.「親子会社の規律」に関する論点
- 親会社株主の保護
- 子会社少数株主の保護
- キャッシュ・アウト
- その他の論点
- 盛り込まれなかった親子上場禁止
- V.見直しの他の論点
- VI.おわりに
要約と結論
- 現在会社法制の見直しが行われている。昨年発生した企業不祥事もあり、日本の企業統治の在り方に対する議論が高まっているが、会社法制の見直し議論と並行して企業統治体制の整備と拡充に力を注ぐ企業が増えることにより、日本企業、及び株式市場の信頼が回復、向上すると期待される。
- 会社法制見直しの中間試案では「企業統治の在り方」が論点のーっとされているが、中でも社外取締役の選任義務付けが注目される。義務付けに対し慎重な声も聞かれるが、投資家からの要望は強い。このため、義務付けの如何にかかわらず、自発的、積極的に社外取締役を選任する企業の数が増えることが期待される。また、現在明確な基準のない独立性の要件も検討されている。
- 現行の監査役会設置会社、委員会設置会社と並ぶ企業統治機関として監査・監督委員会設置会社制度の創設が提案されている。この制度は事実上、従来の監査役、社外監査役を取締役、社外取締役とし、取締役会での投票(議決)権を持たせるものである。社外取締役と社外監査役の機能が類似していることを理由に社外取締役の設置に難色を示している企業等での採用が期待される。
- 「親子会社に関する規律」においては、最終完全親会社の株主が子会社の取締役等の責任追及の訴えを提起できる多重代表訴訟制度の創設等が検討されている。また、TOB等により買付者が一定以上の株式を取得した場合、残余株主が保有する株式を株主総会の承認を必要とせずに買い取ることのできるキャッシュ・アウトの制度化も検討されている。なお、一時期話題となった「親子上場禁止の法制度化」に関しては、今回の中間試案では盛り込まれなかった。