確定拠出年金の課題と求められる制度改正
論文2012年秋号
野村資本市場研究所 野村 亜紀子
目次
- I.はじめに
- II.確定拠出年金(DC)の現状
- 個人勘定ベースの年金制度
- 着実に普及するDC
- DC制度の今日的な意義
- III.日本の年金制度を取り巻く現状
- 給付抑制策先送りの公的年金改革論議
- 厳しさを増すDBを取り巻く制度環境
- IV.求められるDC制度改正
- 年金確保支援法の意義とさらなる制度改正
- 拠出限度額引き上げと生涯拠出限度額
- 加入対象者の拡大
- 中途引出要件の緩和
- 運用内容の改善策と制度的な支援
- V.おわりに
- 補論:海外諸国の年金制度改革動向
- 私的年金拡充策におけるDCの活用
- 自動加入・強制加入DCの運用
- 補論:海外諸国の年金制度改革動向
- 確定拠出年金(DC)は、加入者毎に個人勘定が設定され、当該個人勘定への掛金拠出と運用により資産形成を行う年金制度である。確定給付型年金(DB)と比べ、個人勘定資産に対する加入者の権利が確保されること、ポータビリティに優れること、加入者が投資教育を受け運用指図を行うこと等が特徴的である。
- 少子高齢化が進行する中、公的年金改革が議論されているが、そこでいかなる結論が出されるにせよ、多くの国民にとって給付の縮小は不可避と見られる。自助努力を支援する企業年金等の重要性が増すが、DBは、積立不足による追加拠出、退職給付会計に基づく積立不足の即時認識など、企業の負担感が増している。将来的にDBの拡大は難しいと見られ、DCへの期待が高まる。
- DCのさらなる普及のためには、制度改正による後押しが必要となる。2012年から企業型DCの加入者拠出(マッチング拠出)が解禁されたのは前進だが、企業拠出以下に留めるという制限は早々に撤廃すべきである。さらに、拠出限度額の拡大、加入対象者の制約撤廃、困窮時の引出の容認などの拡充策が求められる。
- DC資産は現在6割以上が預金等の低リターン商品に入れられている。多くの企業がDCの「想定利回り」を設定している中で、想定利回りを達成できず、退職給付が期待に届かない加入者が続出することが懸念されている。継続的な投資教育の強化に加え、加入者の明示的な運用指図がなくても掛金が長期分散投資に資する運用商品(「デフォル卜商品」)に入れられる仕組みを導入すべきである。
- 公的年金改革に伴う私的年金の拡充策、なかでもDCの活用は、米、英、独、豪といった諸国でも推進されており、日本におけるDC拡充はグローバル・トレンドに則した動きと言える。DC制度改革の着実な実施が急がれる。