流動性の衝撃・リクイディティインパクト
論文2013年夏号
野村證券金融工学研究センター 大庭 昭彦
目次
- I.はじめに~流動性と株価
- II.最近の流動性の高まりについて
- グローバルな流動性の変化~日米逆転
- 業種・流動性の変化
- 投資スタイル・流動性の変化~小型・割安
- III.流動性をとりまく環境変化
- 海外からの日本株ニーズ
- 米国国内での日本株ETF組成の増加
- 日本銀行のETF買入れ
- IV.急な流動性の高まりは問題か
- リスクの高まりとマーケットインパクト
- 流動性増大に対する東証の対応と評価
- V.おわりに
要約と結論
- 現在、日本の株式市場には、流動性の衝撃・リクイディティインパク卜とも呼ぶベき状況が起きている。流動性を測る典型的な指標である売買回転率でみて、日本は米国よりも低い状況が続いていたが、2012年末以降急激に日本の流動性が高まり、2013年5月末現在では日米が逆転している。また、日本の流動性の増加のしばらく前から株式のバリエーションが上昇している。
- 業種別にみると、電力・ガス、金融(除く銀行)、不動産の3業種の回転率の高まりは特に大きい。投資スタイル別にみると、同じ時期に流動性が高まったのはバリュー株と小型株である。同時期に外人投資家の買いが大きくなっていることと考え合わせると、主に定量的な銘柄選択でバリュー株と小型株に投資するような運用スタイルを持った海外投資家の行動があったと考えられる。
- 2010年から始まっている日本銀行のETF買い入れの効果を定量的に調べてみると、初めの8カ月は効果があったが、その後は効果が減少し、最近になって再び効果が高まっている。
- 日本株のリスクは流動性が高まった昨年末から急激に上昇し、市場全体だけでなく個別銘柄で見ても、日中ボラティリティは大きくなっている。しかし、このリスクの増大量は、流動性向上量に対して過大ではなく、日本株の取引のしにくさはむしろ減少している。
- 2010年より稼働している東証の高速な取引システム「アローヘッド」の導入による市場の効率化・低取引コスト化、あるいはその後並行して進展している価格発見機能を補助する高速なPTS(私設市場)の拡大は、今回の実際の流動性向上や、その際のインパク卜上昇を抑えるのに役立ったと考えられる。