日本経済中期見通し2014-デフレ脱却の姿がみえてきた-
論文2014年春号
野村證券金融経済研究所経済調査部 木下 智夫、尾畑 秀一、野木森 稔、水門 善之、岡崎 康平、大越 龍文、西山 賢吾
野村證券金融市場調査部 高橋 泰洋
野村證券投資情報部 桑原 真樹
目次
- I.はじめに
- II.成長戦略が中期的成長力を左右しよう
- 「六重苦」問題は部分的に改善してきた
- 成長戦略の意義構造改革と需要喚起が柱
- 成長戦略による成長率押し上げ効果は0.75%に達しよう
- 経済連携協定の推進そのメリットは大きい
- 外国人の訪日促進訪問客の大幅な増加が期待される
- 労働市場改革その重要度は過小評価すべきではない
- 電力システム改革効率性向上が期待される
- 法人税減税期待感が高まってきた
- PPP/PFI-インフラ開発・整備の経済成長への活用
- 国家戦略特区とその他の改革
- オリンピック・パラリンピック、カジノといった大規模事業の経済インパクト
- コーポレート・ガバナンス改革順調に進捗
- 女性の活躍推進策
- III.日本経済の2020年までのシナリオ
- 2020年までの成長の姿:2つのシナリオ
- 今後は賃金上昇が民間消費の牽引役に
- 本格的なデフレ脱却局面へ
- 金融政策の見通し-2016年からの資産購入規模減額を予想
- IV.経常収支・財政収支の中期的見通し
- 経常収支見通し:経常赤字は定着するのか?
- 財政収支見通し:財政再建目標と成長戦略のバランス
- V.結論
要約と結論
- アベノミクス始動後の日本経済は前向きの大きな変化を遂げた。今後の中期的な成長力向上の鍵は、成長戦略を成功させることができるかどうかであろう。この観点に立ち、今回の中期経済見通しでは、成長戦略が成功するケース(以下では「成功ケース」と略記)と成功しないケース(同「不成功ケース」)の2つのシナリオを想定し、2020年までの経済予測を行った。
- 成功ケースでは、経済連携協定の推進や法人税率引き下げ、労働市場改革などの主要分野において成長戦略が政府の期待通りの成果を上げることができるとの前提に立った。この場合、16~20年の年平均でみた実質GDP成長率は1.8%に達する。17年に米国景気の減速が予想されるにもかかわらず、期待成長率の上昇を背景に、民間設備投資は同期間に年平均で5.6%増加すると見込む。他方、不成功ケースでは、成長戦略が日本の成長率を底上げするのではという期待が16年ごろにはすっかり後退してしまう。これに法人税減税が見送られることも重なり、民間設備投資は低迷しよう。16~20年における年平均の実質GDP成長率は0.9%にとどまろう。なお、経常収支については、両シナリオにおいて、黒字が維持されると予想する。
- どちらのシナリオ下でも、労働市場の逼迫で賃金上昇が見込まれることが、デフレからの脱却につながろう。成功ケース、不成功ケースにおける20年のコアCPI上昇率は、それぞれ、1.7%、0.9%と予想する。財政面では、(1)2度にわたる消費増税と(2)インフレが安定的に維持されること、により、政府債務残高の対GDP比率は、過去10年間にみられた上昇ペースを大幅に鈍化させよう。成功ケースでは、法人税減税の実施にもかかわらず、同比率が2020年まで微増するにとどまる見通しである。
- 金融政策面では、日本銀行は2%の物価目標を維持したまま、16年度から国債などの資産買入規模を徐々に減額すると予想する。成功ケースでは、17年末にはゼ口金利が解除され、19年末にはネットでの資産買入れ額がゼロに縮小されよう。一方、不成功ケースでは、なお相対的に高水準の資産買入れが継続され、20年になっても量的・質的金融緩和政策が継続されると予想する。