iPS細胞と再生医療産業の展望

論文2014年秋号

野村リサーチ・アンド・アドバイザリー 若尾 正示

目次

  1. I.はじめに
  2. II.iPS細胞を中心とした再生医療を取り巻く動向
    1. 日本発のイノベーションであるiPS細胞
    2. 根治を目指す再生医療
    3. 細胞の起源と細胞の移植方法
    4. iPS細胞で広がる対象疾患
    5. iPS細胞以外の多能性幹細胞
  3. III.再生医療産業の拡大に向けて
    1. 規模と収益性が求められる再生医療
    2. 製造コスト
    3. 法制度の変化
  4. IV.イノベーションを産業にする
    1. 再生医療の産業化のプロセス
    2. 収益を最大化するために
  5. V.まとめ

要約と結論

  1. iPS細胞(lnduced pluripotent stem cells、人工多能性幹細胞)が、世界の医療産業に新たな市場を創出する。iPS細胞は日本発のイノベーションであり、日本が世界に先駆けて「再生医療」として産業化に繋げられるシーズである。2012年10月に山中伸弥教授がノーベル賞を受賞し、iPS細胞への注目度はさらに高まった。
  2. iPS細胞の登場により再生医療の可能性が広がった。再生医療は、病気や事故で機能不全に陥った部位を完全に修復し、根治を目指す治療である。これまでは人為的に取り扱える細胞が少なかったため、再生医療の対象疾患も限られていた。iPS細胞によりあらゆる細胞が獲得可能になったため、再生医療の対象疾患は大きく広がった。
  3. 日本の社会全体で再生医療のプレゼンスが高まる中で、再生医療産業は、市場規模の拡大と収益性の改善が待たれる。現在の再生医療産業は、対象疾患が限定されていること、労働集約産業であることから、事業規模が小さく、収益性が低い。産業として成熟していくためには、規模の拡大、営業レバレッジ効果のある資本集約産業に変化が必要である。
  4. 日本がiPS細胞をはじめとした幹細胞イノベーションでプレゼンスを発揮すること、すなわち再生医療から得られる収益を最大化するためには、市場性の高い製品を早期に国内外で上市させることである。そのためには、オールジャパン体制にとらわれない、国内外の企業との協業が必要である。
  5. 再生医療が日本のバイオベンチャー産業の活性化の契機になることを期待したい。そのためにも、10~20年後を見据えたより具体的な戦略と投資が必要である。