米国における地銀再編の展開
論文2015年新春号
野村資本市場研究所 淵田 康之
目次
- I.地銀再編の必然性
- II.主要米地銀のM&A事例
- ウェルズ・ファーゴ
- USバンコープ
- PNC
- コメリカ
- III.米銀におけるM&Aを通じた広域展開の教訓
- 地域を超えた経営戦略の勝利
- 地銀的名称の廃止
- 銀行連合から単一銀行へ
- 成長地域への進出
- 本社所在地の選択
- 地域を超えたM&Aの影響
- 株式市場重視の姿勢
- ガバナンスとマネジメントのイニシャティブ
- IV.わが国への示唆
- 日本再興戦略及び自民党の日本再生ビジョンの要請
- 地域と共に滅びないために
要約と結論
- 米国では、1980年代以降、銀行の立地規制の緩和を背景に、地域を超えた銀行M&Aが活発に展開されるようになっている。地銀であっても、多くは上場企業であり、特定の地域に自らの成長機会を制約されるのではなく、企業価値最大化のために、全米を見渡し、有力市場に進出していくことが当然となっている。
- 今日、米地銀のトップ・ティアに位置付けられるウェルズ・ファーゴ、USバンコープ、そしてPNCの歴史を振り返っても、人口が多い、あるいは人口増加率の高い市場の銀行を買収していったことが、飛躍のカギとなっている。これらトップ・ティアに次ぐ地銀の中には、人口減少に悩むデトロイトから、人口増加の著しいダラスに本社を移したコメリカのような銀行もある。地域を超えた経営戦略の重要性を反映し、米銀では行名に地域の名称を付ける事例が激減している。
- 地元の銀行の本社が他に移転するようなことがあっても、必ずしも同行の旧来の地盤でのプレゼンスが低下するわけでもなく、また地元経済に大きなダメージがもたらされるわけではないことが確認できる。
- 米地銀のM&A戦略の底流には、株式市場における評価を重視する姿勢がある。またそれに基づく意思決定を促す、コーポレート・ガバナンスとマネジメントの存在がある。
- わが国の地銀においても、政治や行政に促されるまでもなく、地域を超えた再編・統合は不可欠の選択肢となっていこう。地元経済が縮小する中、株主以外のステーク・ホルダーの意向ばかりを重視していては、変革は困難となりかねない。その意味で、株式市場を重視したコーポレート・ガバナンスが機能するなかで、地域を超えた銀行のM&Aが展開されてきた米国の状況は参考となろう。