バーゼルIIIを越えて進む国際金融規制改革

論文2015年夏号

野村資本市場研究所 小立 敬

目次

  1. I.はじめに
  2. II.バーゼルIIIの概要とその適用
  3. III.銀行勘定の金利リスクの資本賦課
  4. IV.ソブリン関連リスクの見直し
  5. V.リスク・アセットの見直し
  6. VI.レバレッジ規制の最終化
  7. VII.ベイルイン、TLAC
  8. VIII.おわりに

要約と結論

  1. G20の枠組みの下でバーゼルIIIの適用が進められているが、バーゼル委員会はバーゼルIIIの追加的な改革を新たに進めようとしている。バーゼルIIIやバーゼルIIIの追加的な改革以外にも金融安定理事会(FSB)による改革も行われている。2014年11月のブリスベン・サミット前後に提示された改革の内容をみると、その帰結によっては銀行の経営や金融市場に大きな影響を与える懸念もある。
  2. バーゼルlllの追加的な改革には、銀行の日本国債の運用に影響を与える懸念のある検討が含まれている。その1つが銀行勘定の金利リスクに対する資本賦課である。バーゼル委員会は2015年6月に市中協議文書を公表し、第1の柱に位置づける案と第2の柱に位置づける案を両論併記で提示した。第1の柱に位置づけられると、銀行には新たな資本賦課が求められることになる。
  3. 銀行の日本国債の運用に影響をもたらす改革として、ソブリン関連リスクに関する見直しもある。バーゼル委員会はすでにより幅広く全体的な見直しを行う方針を表明している。ソブリン債務危機を受けて議論を先行させるEUは、リスク・ウェイトの引上げを含む改革を提案する報告書を示している。バーゼル委員会の検討作業は、今後、段階的に行われることが想定されるが、日本国債のファイナンスへの影響ということも含め、金融市場に大きな影響が生じるおそれがある。
  4. また、バーゼル委員会はブリスベン・サミットにおいてリスク・アセットの計測方法の見直しを行う方針を明らかにした。今後、信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスクについて、標準的手法の改定、内部モデル手法の改定、資本フロアーの導入が行われる。特に2014年12月に提案された信用リスクの新たな標準的手法は、従来に比べてリスク・ウェイトの水準を引上げており、銀行の自己資本比率の低下要因となる可能性がある。
  5. G20の枠組みの下で進展する国際的な金融規制改革は、バーゼルlllを越えてその先へと進んでおり、従来にない広がりと深さをもって強力に推進されている。今後、その影響は日本あるいはグローバルの金融市場、金融セクターに現れてくる可能性がある。金融危機の再発防止を図る金融規制改革がかえって金融の機能を阻害することがないよう、今後の改革の進展を注意深く見守る必要があるだろう。