ROE向上のための株主還元~国際比較を基に
論文2015年秋号
野村證券金融工学研究センター クオンツ・ソリューション・リサーチ部 杉下 裕樹
目次
- I.はじめに
- II.グローバルな視点から見た日本企業の株主還元政策
- 株主還元水準の国際比較
- 株主還元手法の国際比較
- 日本企業の株主還元の特徴
- III.株主還元政策のベンチマーク
- 株主還元水準ベンチマーク
- 株主還元手法ベンチマーク
- IV.持続的なROE・株主価値向上のための株主還元政策モデル
- 株価と資本コスト
- 持続的な株主価値向上のための株主還元政策
- V.モデル活用例
- VI.おわりに
要約と結論
- 本稿では、グローバルな視点から日本企業の株主還元<配当+自己株式取得>政策を俯瞰し、株主還元政策のベンチマーク、及び株主価値向上に資する株主還元政策の数理モデルを提案する。これらモデルを用いることにより、企業の状況に応じた株主還元政策を定量的に評価することが可能になり、持続的なROE(自己資本利益率)・株主価値向上を目指す経営の意思決定ができると期待される。本稿の最後では、仮想企業を用いた評価例も紹介する。
- ROEを用いて構築された株式指数であるJPX日経400の算出の開始、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)や大手生命保険が取締役選任方針にROEを採用した事や日本版スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード、伊藤レポートの公表により、ROEに対する意識はさまざまな主体で高まっている。必然としてROEの分母である自己資本のマネジメント、特に株主還元政策には注視がされる。
- グローバル約6,000社の株主還元の水準に対して、収益性、事業リスク、投資機会、手元流動性、財務リスクを表す代理変数を用い統計モデルを作成した。企業が当該モデルを利用すれば、自社の特殊要因の一部を考慮した上で、海外企業をベンチマークとして現状の株主還元水準を評価することや、今後の株主還元水準を思案することが可能になる。
- 欧米企業(特に米国)は、機動的な株主還元を利用しキャッシュフロー(CF)を安定化させている可能性が示唆される。一方、日本企業は株主還元を利用してCFを安定化させているとは言い難い状況である。今後、日本企業がCFを安定化する機動的な株主還元政策を思案する場合、米国企業の株主還元策はベンチマークとして利用できよう。
- 株式の本源的価値は将来の株主還元である。将来の株主還元は企業の持続的成長があってこそ期待が高まる。持続的な利益成長を達成できる前提において最大限の株主還元を行うことが重要である。