地方創生に向けた「地域型農業輸出モデル」の構築
論文2015年秋号
野村アグリプランニング&アドバイザリー 佐藤 光泰
目次
- I.はじめに
- II.地方創生に向けた地域農業政策の考え方
- 地域農業の役割
- 農業政策の変遷
- 地域農業と新市場の創出
- 新市場創出が見込まれる農業輸出ビジネス
- 農業輸出ビジネスと地方創生
- III.地域農業の輸出ビジネスの現況と課題
- 日本の農林水産物・食品輸出の現状
- 日本の農林水産物・食品の輸出実績の分析
- 現状の地域農業の輸出ビジネス形態
- 地域農業の輸出ビジネスの課題
- 課題解決に向けた考え方
- IV.他国の農業輸出ビジネスの分析
- 世界の農水産物・食品の輸出市場
- 各国の輸出品目と特徴
- オランダ農業の輸出戦略
- 韓国農業の輸出戦略
- V.「地域型農業輸出モデル」の構築に向けて
- 日本の農林水産物・食品輸出の潜在性
- 国の輸出戦略の分析
- 「地域型農業輸出モデル」の考え方
- 「地域型農業輸出モデル」の要諦
- VI.おわりに
要約と結論
- 「地方創生」の重要テーマである地域農業のあり方が問われている。現在、生産農業所得と農業就業人口は40年前と比べてほぼ半減し、また、優良農地の減少や農山漁村での高齢化率の上昇による集落機能の低下も深刻な問題となっている。
- 農山漁村が活力を取り戻し、農業を軸とした地方創生を実現するには、新たな市場創造(需要フロンティアの拡大)が不可欠である。人口減少と高齢化により市場が縮小している国内での市場創造は容易ではない。国内産業間による市場の"すり替え"を目指すのではなく、海外市場の開拓に奮励努力する時期である。
- 地域農業の輸出ビジネスは黎明期にある。日本の農林水産物・食品の輸出額は、昨年、過去最高を更新したが、これは、ここ数年来の円安が最大の追い風だと推察される。実際、米ドルベースの同輸出額は、2010年以降、横ばいで推移している。
- 世界の農水産物・食品の輸出市場における日本のシェアはわずか0.3%で、しかもそのシェアは年々縮小している。しかし、裏を返せばその潜在性は大きい。国が2030年の輸出額目標として掲げる5兆円の達成を今から視野に入れたい。そのためには、現在の延長線上ではない構造的な輸出戦略の見直しが急務である。
- 地域農業の新たな輸出モデルの構築に向けては、「地域間連携」と「海外現地農業生産」への取り組み、また、「輸出インフラと事業運営組織」の集約・新設がカギとなる。地域間連携は、共同商品開発にまで踏み込み、「地域独自ブランド」の他、「地域間共通ブランド」、「海外生産ブランド」のマルチブランド戦略にて、海外の多様な顧客層の開拓を図ることが求められる。「地方創生」元年の今年、地域関係者による将来ビジョンを見据えた農業輸出ビジネスの取り組みに期待したい。