日本の企業統治改革の進捗と今後の注目点
論文2016年春号
野村證券エクイティ・リサーチ部 西山 賢吾
目次
- I.はじめに
- II.改革がもたらした企業行動の変化
- 成長戦略としての企業統治改革「前史」
- 成長戦略としての企業統治改革の動き
- 改革による変化の「証拠」と「課題」
- ROE10%の「壁」は未だ越えられず
- 国内企業同士のM&Aに注目
- III.企業統治改革は「効果測定」の局面へ
- 重要度がさらに高まる議決権行使
- 企業統治改革の実効性を高める動き
- IV.補論:企業統治改革とESG投資
- 日本でのサステナブル投資の現状
- 社会的価値と経済的価値の両立を目的とするCSV
- V.おわりに
要約と結論
- 2013年より始まった日本の企業統治(コーポレートガバナンス)改革は、成長戦略の一環として位置づけられていることが特徴である。社外取締役を選任する企業の増加や、株主還元の過去最高更新など改革のエビテンス(証拠)が見られており、ここまでは一定の成果が表れているといえる。
- しかし、最も注目されている日本企業のROE(自己資本純利益率)は30年以上にわたり10%を下回る状況が続き、現状でも8%近辺で頭打ちの状態であるなど、改革はまだ道半ばである。改革をさらに進めROEを高めるためには、企業の収益性の向上が不可欠と考える。その意味から、国内企業、産業の再編を目指した国内企業同士のM&A(企業の合併、買収)の動向に注目したい。
- 15年6月より始まった「企業統治改革3年目」の動きとして、ここまで一定の成果を上げた改革の実効性をさらに高める目的で各種の会議体が設置され、議論が進められている。一方、GPIF(年金積立金管理運用特別行政法人)がESG(環境・社会・企業統治)の取り組みを強化するなど、ESG投資、サステナブル(持続可能)投資への意識もさらに高まりを見せている。こうした中では、社会的価値と経済的価値の両立を目指すCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)が企業や投資家からの関心を集めていくと考える。
- コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードが出そろい、企業の持続的な成長に向けた投資家と企業の「目的を持った対話」が進められる。こうした取り組みにより、日本企業のROEが国際的にも遜色のない2桁台に定着すれば、「成長戦略としての企業統治改革」が成功したとして世界的にも高く評価され、日本企業、株式市場の存在感もさらに向上すると考える。