日本企業を取り巻く会計・開示制度改革

論文2016年夏号

野村證券エクイティ・リサーチ部 野村 嘉浩

目次

  1. I.はじめに
  2. II.日本企業のIFRS浸透
  3. III.IFRSの開発状況
  4. IV.JMISの開発状況
  5. V.日本基準の開発状況
  6. VI.金融審議会の動き
  7. VII.おわりに

要約と結論

  1. 日本における国際会計基準(IFRS)適用企業数は、2016年3月期有価証券報告書提出時点で、82社を数え、その属する業種は、東京証券取引所が用いる業種別分類(33業種)ベースで19業種に及ぶ。2016年4月期から2017年3月期までの有価証券報告書からIFRSを適用する予定の企業は31社が確認されるため、2017年3月期有価証券報告書提出時点でのIFRS適用は、100社を超えることとなる。IFRS適用の更なる推進に向けて、今後、例えば、資本市場に大きな影響力を有する、時価総額が2兆円を超える企業への働きかけが必要となろう。
  2. IFRS開発の主要プロジェクトであった収益認識、金融商品、リース、保険契約は最終化され、IFRSはもはや「ムービング・ターゲット(動く標的)」ではなくなった。世界中の国・地域は、新基準の適用に向けた規制当局や企業の準備が加速しており、日本もその例外ではない。今後、国際会計基準審議会(IASB)は、概念フレームワーク、開示に関する取組、基本財務諸表、のれんの減損についてリサーチを強化する方向である。
  3. 修正国際基準(JMIS)は2016年3月期からの任意適用が始まっている。目下、企業会計基準委員会(ASBJ)が2013年版の開発を進めており、その後、収益認識や金融商品を取扱う2014年版の検討へとつながる。今後、「のれん償却」と「リサイクリング」以外の「削除又は修正」項目が出現するかに注目が集まろう。
  4. ASBJが開発する日本基準では、収益認識基準のプロジェクトが注目される。日本経済団体連合会は、IFRSへの収斂を意識した日本基準の開発に賛同の意を表明しており、開発に向けた審議の素地が整った。今後の審議が注目されよう。
  5. 開示制度の改正では、東京証券取引所が中心となって、決算短信の開示内容のあり方の検討が進んでいく。決算短信に財務諸表の添付を必ずしも求めない制度対応が視野に入っていることから、財務諸表利用者としては、そうした事例の浸透に留意したい。