日本の会計・開示・監査制度を取巻く環境変化

論文2017年夏号

野村證券エクイティ・リサーチ部 野村 嘉浩

目次

  1. I.はじめに
  2. II.日本企業のIFRS 浸透
  3. III.IFRSの開発状況
  4. IV.日本国内での制度の動き
  5. V.おわりに

要約と結論

  1. 日本における国際会計基準(IFRS)適用企業数は、2017年3月期有価証券報告書提出時点で、120社を数える。続く2018年3月期有価証券報告書提出時点でのIFRS適用は、150社を超えることとなり、その属する業種は、東京証券取引所が用いる分類(東証33業種)ベースで24業種に及ぶ。銀行業に属する企業に対して日本会計基準に基づく連結財務諸表作成の義務が撤廃される可能性も検討されつつあり、制度的な後押しを受けて、日本企業のIFRS浸透はますます広がろう。
  2. IFRS開発の主要プロジェクトであった収益認識、金融商品、リース、保険契約がすべて最終基準となり、IFRSはもはや「ムービング・ターゲット(動く標的)」ではなくなった。今後、国際会計基準審議会(IASB)は、純利益概念を提示した概念フレームワークを2017年内に最終化した上で、「財務報告のコミュニケーションの改善」を意識しつつ、開示に関する取組、基本財務諸表についての審議を活発化させていく。
  3. 日本国内での制度改革は、会計基準、開示制度、監査基準の3つの側面から、それぞれ進んでいく。企業会計基準委員会(ASBJ)が開発する会計基準では、収益認識基準の公開草案が2017年7月に公表される予定で、IFRSへの収斂を意識した基準開発が加速する。開示制度では、「未来投資戦略2017」に掲げられた方針に沿って、決算短信の簡素化に続き、事業報告等と有価証券報告書の一体的開示が2017年中に、四半期開示制度の再検討が2018年春までに、それぞれ具体化するとされている。監査基準では、海外で定着しつつある長文型の監査報告書の導入に向けた議論が日本でも活発化する。
  4. IASBが標榜する「財務報告のコミュニケーションの改善」に代表されるように、会計基準、開示制度、監査基準の制度改革は、財務諸表利用者のニーズを踏まえる形で、国際的にも国内的にも、今後ますます推進されよう。投資家に代表される財務諸表利用者が、こうした制度改革に向けて積極的に意見発信する姿勢が、より一層求められることとなろう。