機関投資家に選ばれる銘柄
論文2017年秋号
野村證券クオンツ・ソリューション・リサーチ部 新谷 理
目次
- I.はじめに
- II.各投資家の保有比率の取得方法
- 機関投資家保有比率の取得方法
- 個人投資家保有比率の取得方法
- III.ファクターリターンの傾向
- IV.各投資家保有比率のファクター分析
- ファクターの相関行列と要約統計量
- 保有ポートフォリオのファクター分析
- 保有ポートフォリオのリターン分析
- V.業種別の傾向
- 業種別の保有比率に関する分析
- 業種別のウエイト差に関する分析
- VI.考察
- アクティブファンドに対する考察
- パッシブファンドに対する考察
- VII.おわりに
要約と結論
- 近年では世界中で株式投資のパッシブ化が進んでおりアクティブ戦略を見る目が厳しくなっている。アクティブ戦略にコストパフォーマンスの問題があることは事実であるが、ファンダメンタルズ分析により新たな価格発見を促す側面があるため、アクティブ戦略の存在が減少し続けている現状には批判もある。
- こうした批判の妥当性を評価するためには機関投資家の銘柄選別の内容を知ることが重要だが、それに関しての分析例は少ない。本稿ではアクティブファンドやパッシブファンドなどの機関投資家の保有ウエイトを見ることで、近年のアクティブ戦略に対する評価が本当に妥当なのかについての検証を試みた。
- 本稿では公開データを用いて、アクティブファンド、パッシブファンド、そして個人投資家の三区分を主要な投資家とみなした上で、1)ファクター分析の観点、2)業種別のウエイト、3)過去のパフォーマンスの観点からその中身についての分析を行った。
- 分析の結果から、以下のような点が明らかとなった。
- (ア)アクティブファンドの保有比率が高いのは、大型の高ROE銘柄に多く、また積極的に高ROEの銘柄を組み入れる傾向が見受けられた。業種としては電気機器、情報通信業、精密機器などの銘柄が多かった。またアクティブファンドのパフォーマンスは平時においては最も高かった。
- (イ)パッシブファンドでも大型高ROE銘柄を多く保有していた。但しその傾向はアクティブファンドとは異なっている。業種としては医薬品、小売業、電気機器がオーバーウエイトされており、日経平均連動型ファンドの影響が強く反映されていた。
- 本分析の結果から、アクティブファンドはROEを最も重視していたことが確認された。ROEは伊藤レポート〔2014〕が提言したように、現在の多くの日本企業にとっては経営改善目標のターゲットとなっている。アクティブファンドの機能が劣化すると、ROEを高めても株価向上が図られない可能性も考えられる。日本経済の再興を考える場合、企業側のROEの向上と合わせてアクティブファンドの価値の再評価も行う必要があると思われる。