小売業:プラットフォームへの進化を探る

論文2018年4月11日

野村證券エクイティ・リサーチ部 青木 英彦

目次

  1. I.Amazon Effect
    1. 急激な成長が続く消費者向けEC市場
    2. 存在感を増すAmazon.com
  2. II.プラットフォーム間の覇権争い
    1. プラットフォーム事業に宿る「ネットワーク外部性」
    2. ネット・コミュニティにおける「外部性」
    3. データの集積・解析力の競争
  3. III.人口動態:縮む日本、膨らむアジア
    1. 日本における少子高齢化
    2. アジアでの人口増大
    3. インバウンド需要は回復の兆し
  4. IV.小売業の勝ち残り戦略
    1. マーケティング・プラットフォームへの進化
    2. 店舗ならではの体験を提供
    3. EC化への対応

要約と結論

  1. 小売業界は、足元は良好な消費環境に恵まれている。継続する労働需給のひっ迫と賃金の上昇や、訪日外国人客による旺盛な消費意欲などが追い風となっている。しかし、中期的な視点で将来を展望すると、小売セクターには劇的な環境変化が待ち受けている。
  2. すなわち、(1)Amazon Effect;世界の小売市場を震撼させているAmazon.comの影響が間もなく日本でも本格化する、(2)プラットフォーム間の覇権争い;アマゾン、グーグル、アップル、フェイスブックなどによるプラットフォーム間の覇権争いは、高度な消費者向けサービスを生み出し、利便性についての消費者期待を激変させる、(3)人口動態の激変;少子高齢化で縮む日本に対しアジアでは人口が膨らむ。海外展開と訪日外国人客の需要取り込みの巧拙で業績格差が広がる、という3つの変化が予想される。
  3. 今後、これらの荒波をむしろ追い風とし、企業価値を成長させため、小売業は次の3つの力を持つことが求められる。第1は、マーケティング・プラットフォームの構築である。小売の付加価値のうち、今後は売り場の価値(環境、立地、サービス)よりも商品の価値(価格、品質、品揃え)が重要になる。メーカーから卸、小売のつながりを、単なる取引の連鎖ではなく、一つのプラットフォームとしてとらえ、ネットワークを構築することが、革新的な商品を生み出す力となる。第2は、店舗ならではの体験の提供である。物品の販売のみならず、店舗ならではの体験を提供する力が求められる。第3は、EC対応である。有店舗の小売業としての資産を生かしつつ、EC化の流れに乗る力が必要である。