自動車パワートレインの電動化

論文2018年4月25日

野村證券エクイティ・リサーチ部 桾本 将隆

目次

  1. I.パワートレインの電動化:18年以降の展望
    1. 18年はBEVとHVを中心にパワートレインの電動化が進もう
    2. 完成車メーカーの計画からも電動化重視の姿勢が窺える
    3. 各国政府からBEV関連の動きが相次いだ
    4. 「クリーン」な電源の構成比が高い国以外はHVの方が適当
  2. II.中国のNEV政策:アメからムチへ
  3. III.インド:BEV市場はまだ揺籃期
  4. IV.欧州:HVがディーゼルに取って代わりつつある
  5. V.全固体電池がゲームチェンジャーとなりうる

要約と結論

  1. 自動車のパワートレインの電動化は18年に、電気自動車(バッテリーEV=BEV)とハイブリッド車(HV)を中心に世界的に加速するとみるが、地域によってパワートレイン電動化の進み方は異なる。政府の政策、自動車の利用パターン、世帯当たりの保有台数、充電インフラ、燃料や電気への課税などの要因によって差が出てくる。また、温室効果ガスの排出削減がBEV化推進の主たる狙いであるなら、車両のライフサイクル、つまり製造から廃車を含めたすべての工程で排出される温室効果ガスを考慮するのが理想だろう。
  2. 中国では政府の強い後押しがあるためBEVの普及が世界で最も速く進むだろう。中国政府の自動車産業を巡る政策は、エネルギーセキュリティの確保を念頭に置いたものである。内燃機関技術では世界の完成車メーカーが大きくリードしているが、まだ新しい技術分野であるBEVにおいては中国メーカーが技術優位に立つチャンスがある、という期待もある。ただ、BEV政策を生産台数に基づくものにすることで消費者のニーズは無視されかねない。政府のBEV規制を遵守できても、自動車の買い手が広くBEVを好むようにならない限り、メーカーの採算が犠牲になってしまうだろう。
  3. CO2排出規制の厳しい欧州では、消費者に好まれてHVの需要が盛り上がっている。路上での排ガス規制厳格化によってディーゼル車の開発・生産コストが増加するなか、多くの自動車メーカーがディーゼル車の開発に充てる資源を縮小し、代わりにHVやBEVへの投資を強化し始めた。欧州の排出規制が厳格化される方向に向かっていることは確かであり、自動車メーカーはパワートレインの電動化を一段と加速させるだろう。
  4. 現在の自動車用リチウムイオン電池技術は高度化しており、少なくとも今後5年間はBEVを支える主流技術であり続けよう。その後は、全固体電池などの次世代電池に徐々に取って代わられると我々は考える。