アマゾンに対抗しうる小売、クラウドで第2のアマゾン効果も

編集者の目2018年4月27日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

4月12日に、ユニクロを展開するファーストリテイリングが2018年8月期上期決算を発表した。連結売上高は前年同期比16.6%増の1兆1,868億円、連結営業利益は同30.5%増の1,705億円と好調だった。セグメント別営業利益では、国内ユニクロ事業が同29.0%増益、海外ユニクロ事業が同65.6%増益と、中国・アジアを中心に海外事業が大きく利益を伸ばしたが、国内事業も厳冬という天候要因に助けられたとはいえ、好調であった。今次決算を見る限り、米国で既存小売業に大きな脅威になっているアマゾン効果はファーストリテイリングの成長に脅威となっているようには見えない。

もちろん、日本においてもアマゾンのネット通販の成長で、今後は既存小売業に影響が出てくることが見込まれる。というのは、16年のアマゾン・ジャパンの純売上高は1兆1,746億円と日本の小売業では第7位の規模に達し、推定総取扱高は1兆8,800億円とローソンにつぐ第5位に匹敵するまでになっているからだ。さらに重要なことは、増収額の大きさである。アマゾン・ジャパンの推定総取扱高の増加額は16年で3,000億円超に達しており、これは小売業トップのセブン&アイ・ホールディングスの増収額のほぼ2倍である。

それでは、アマゾンの影響を受けにくい、対抗しうる小売企業はどのような企業なのだろうか。足元で発表が相次いだ小売企業の決算を踏まえ、かつ野村の小売りアナリストの分析をもとに、次の3つの差別化要因を例示し、代表的な企業を挙げてみる。第1に、大商圏ビジネスか、小商圏ビジネスかという違いがある。アマゾン等のEC事業者のビジネスは日本全国、東京圏といったマスの消費者を相手としたビジネスで、品揃えの数は数億アイテムに達する。これに対し、コンビニエンスストアは小商圏で、品揃えの数は3,000アイテム程度、しかも温度管理を要するものがあるといった違いがある。実際、セブン&アイHDの国内コンビニ事業は堅調を続けており、海外コンビニ事業の寄与もあり、18年2月期決算も前期比7.4%の連結営業増益と好調であった。

第2に、EC事業者のシェア拡大は販売チャネルの増加にほかならず、小売業の付加価値のうち、売り場の価値が相対的に低下することを意味する。逆に、商品そのものの価値、すなわち、価格、品質、デザイン、品揃え等がより重要になり、商品での差別化が一層大事になる。代表例は、素材開発から製品化までを自社と提携企業で行い、差別化するファーストリテイリングのような企業である。上記でみたように好調な業績を維持できているのは、この点を意識した経営を展開しているからに他ならない。

第3に、EC化の度合いに応じ、売り場構成を柔軟に変えることで差別化するやり方がある。EC化が急速に進んでいるアパレルの売り場を縮小し、飲食・食品販売、サービスの売り場を広げるなど、売り場構成を柔軟に変更し、EC化の波をかわしている丸井グループ等がこれに当たる。丸井Gは、上記の外、靴PB商品の体験ストアを開始して注目を集めている。実際、靴は消費者が売り場に出向き履いてみないと買うか買わないか判断できない商品だ。丸井Gでは、消費者が店頭で履いてみて気に入った商品を決めると、その場でネット注文し商品が自宅に届けられる仕組みを導入している。導入した実験店では、在庫スペースが節約され、坪売上は1.3倍になったとされる。加えて丸井Gにはフィンテック事業がある。すなわち、クレジット利用の多い若い世代の顧客を主な対象として、割賦手数料、消費者ローンの利息収入等金融から利益をあげる事業である。売り場構成の柔軟化、体験ストア、フィンテック事業と、ユニークな経営を行い、EC化に対抗する丸井Gも注目されよう。

最後に、アマゾンはEC事業の拡大に加え、コンピューティング、ストレージなどのITリソースをインターネット経由で、オンデマンドで利用できるクラウド事業も急速に伸ばしている。クラウド事業を行うアマゾンウエブサービス(AWS)の売上高は2017年12月期で前期比43%増の175億ドル、1ドル=112円(17年の平均レート)で換算して、1兆9,600億円となっている。世界のクラウド事業はAWSが1位でシェア34%、2位がマイクロソフトでシェア11%である。アマゾン効果というと、EC事業の拡大に伴う既存小売業への影響を指すが、クラウドの普及は、スタートアップ企業のITリソースの利用を格段に容易にし、経済の活性化に貢献している。同時に、IBMのような伝統的なIT企業が劣勢になっている。第2のアマゾン効果が今後大いに議論されることになるだろう。

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