中国の電気化
-中国発BEV・エネルギーのイノベーションが到来-

論文2018年6月19日

野村證券エクイティ・リサーチ部 秋月 学

目次

  1. I.中国発のBEV・エネルギー分野でのイノベーションが到来
    1. 環境の制約:重化学工業偏重の産業構造が高い環境負荷を招く
    2. エネルギーの制約:今後は輸送、商業部門が大きく増加へ
    3. 経常収支の制約:化石燃料の輸入拡大は経常収支の悪化を招く
  2. II.BEV化を実現する中国発イノベーション
    1. 補助金制度から義務化へ
    2. 電池を回収・再利用・リサイクルして社会的コストを削減
  3. III.BEVに必要な車両技術:日本の国際競争力が高い
  4. IV.産業への波及効果

要約と結論

  1. 中国の電気化が加速すると予想される。本稿は、中国のエネルギー消費に占める電気の比率が上がる(=電気化が進む)背景を論じた上で、今後予想される中国のモータリゼーションは、BEV(電気自動車)の普及が社会的に最適と考えられることを明らかにする。中国は、国家政策レベルでBEVの普及拡大の取り組みを進めており、電力・エネルギー分野で中国発のイノベーションが次々に起きることが予想される。中国の電気化がもたらす産業への波及効果をまとめる。
  2. 「環境」、「エネルギー」、「経常収支の黒字確保」という3つの社会・経済的な制約が、今後中国で電気化やBEVの普及を促そう。中国では、化石燃料を使う重化学工業偏重から加工業、サービス産業など電気がエネルギー源となる産業中心の経済構造へ変換が見込まれる。「電気」は、化石燃料、再生エネルギー、原子力など発電方法を多様化でき、エネルギー変換効率が他の動力装置より圧倒的に高いモータを動力源とすることでエネルギー効率を高められる上に、排出ガスがほとんどないクリーンなエネルギーである。電気化によって、中国の成長制約を緩和することができよう。中国は20年までに電力の完全自由化を実施し、民間資本の導入と市場原理の活用により電力業界の生産性を高める意向である。
  3. 現状入手可能な技術を基に、BEVを普及させるのに有効なイノベーションにはどのようなものがあるか?BEVは電池コストが高いことが普及への障壁となる。中国は19年以降、補助金制度からNEV(New Energy Vehicle:BEV、PHEV、FCV)規制に移行する。内燃機関車からNEVへの利益移転制度を導入することで、より市場原理に近いNEV化策へ舵を切った。また、NEV用リチウムイオン電池を回収、再利用、リサイクルすることを義務付け、電池コストを社会的に引き下げる仕組み作りが計画されている。
  4. 世界最大の自動車市場である中国がNEVの普及に動くことで、車両の電動化が世界的に加速する見通しとなった。車両の電動化には、MHEV、FHV、PHEV、BEVなどさまざまなアプローチがあるが、何れも高効率モータと電力変換によって電気を制御する中高圧電気回路(パワーエレクトロニクス)の性能が、電費改善の鍵となる。これらの分野はハイブリッド車先進国の日本に技術的な蓄積が豊富にあり、日本企業が活躍する素地があろう。