2018~19年度の経済見通し
-高まる下ぶれリスク-

論文2018年8月17日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、水門 善之、棚橋 研悟、髙島 雄貴

目次

  1. I.日本経済:高まる下ぶれリスク
    1. 緩やかな成長鈍化継続がメインシナリオ
    2. 輸出の伸びは緩やかに減速と想定
    3. 設備投資は10年を超える拡大へ
    4. 夏場の鉱工業生産はやや弱めに
    5. 雇用環境は堅調継続、ただし基調的な賃金は加速せず
    6. 18年7-9月期の個人消費は猛暑による押し下げに注意
    7. 住宅投資の減少基調を、外国人の流入が緩和する可能性
    8. 7-9月期の公共投資は増加へ
    9. 上昇するエネルギー価格、伸び悩むコアコアCPI
    10. 金融政策変更余地の限界を暗示する政策柔軟化
    11. 日本経済見通し
    12. 世界経済見通し
  2. II.米国経済:景気刺激要因と保護主義
  3. III.ユーロ圏経済:コアインフレ率は徐々に上昇へ
  4. IV.英国経済:すべてはブレグジット次第
  5. V.中国経済:政策緩和が進む見通し

要約と結論

  1. 8月10日公表の18年4-6月期GDP1次速報を受け、日本経済見通しを改定した。改定後の実質GDP成長率は、18、19、20年度につきそれぞれ前年度比+0.8%、+0.7%、+0.7%である。前回見通し(18年7月5日時点)と比べ、18、19年度がそれぞれ0.2ppt、0.1pptの下方修正、20年度は不変となる。18年度の下方修正幅が大きいのは、目先の実質輸出減速をやや大きめに見ていることが影響している。
  2. 野村では、従来と同様、グローバル景気と連動して外需主導での緩やかな成長鈍化が20年度にかけ継続すると予想する。実質輸出・生産の減速は、一般に雇用の改善ペースを鈍化させるが、人口動態等を背景とした基調的な労働需給逼迫は継続する公算が大きい。ただ、労働需給逼迫が賃金を加速させる効果は引き続き鈍く、実質消費の伸びは基調的に低迷する可能性が高い。
  3. 基調的な家計需要の弱さは、企業による投入コスト上昇の価格転嫁を抑制し、物価上昇のモメンタムを抑えることになろう。18、19、20年度のコア(生鮮食品を除く全国総合)消費者物価上昇率は、それぞれ前年度比+0.9%、+0.6%、+0.5%(年度値に関しては全て前回見通しから不変)を予想する。
  4. 緩やかな成長鈍化の基調の下でも、世界的な製造プロセス自動化の流れを受けた国内製造装置メーカーの需要・生産堅調、人手不足を受けた省力化ニーズの強さ、都市部の旺盛な建設需要、等を背景に、実質設備投資は堅調に拡大すると予想している。しかし、米トランプ政権が主導する保護主義的通商政策は、世界的に企業の投資意欲を抑制するリスクがある。この点、国内設備投資にも相応の下ぶれリスクが生じていると考えざるを得ないだろう。
  5. インフレの基調的弱さを背景に、日本銀行は7月31日、金融緩和長期化を前提とした政策柔軟化を決定した。これは、実体経済や物価の更なる下ぶれリスクに対する金融政策の対応余力が極めて限定されている証左でもあろう。景気・物価の下ぶれに対する政策対応はより財政に依存することになろう。こうした点も勘案し、野村では引き続き、19年10月に予定される消費税率引き上げは再延期されることを前提とした。