行動指針の策定・導入が株式の価値評価に与えた影響

論文2018年9月13日

野村證券 投資情報部 本廣 守

目次

  1. I.はじめに
  2. II.仮説構築
  3. III.実証分析
    1. データ
    2. 回帰モデル
    3. 推計結果
      1. (1)FCF比率
      2. (2)自己資本比率
  4. IV.おわりに
    1. 補論

要約と結論

  1. 本論文は、2014年の日本版スチュワードシップ・コードや伊藤レポートといった機関投資家や企業に対する行動指針の策定・導入が我が国の株式市場に与えた影響について明らかにするため、PBR(Price Book value Ratio: 株価純資産倍率)に基づく株式の相対価値評価の側面から実証分析を行い、行動指針の策定・導入の前後でどのような変化が生じたか検証している。
  2. 具体的には、行動指針の策定・導入が株主還元余力の大きい企業の評価を高めたとの仮説のもと、株主還元余力を示す指標と考えられる各企業のフリー・キャッシュ・フロー比率(FCF比率)及び自己資本比率が、企業間の相対価値評価に与えた影響を回帰分析により定量化した。
  3. 分析の結果、行動指針の策定・導入は、それまでに既に積極化していた株主還元の拡充の効果と相俟って、一時期、FCF比率と自己資本比率が高い企業群の株価評価を押し上げた可能性のあることが確認された。しかし、足元で、総還元性向は足踏み傾向にあり、FCF比率の高さは必ずしも評価対象とはなっていないと見られる。自己資本比率が十分以上に高く、フリー・キャッシュ・フローの潤沢な企業が、株価評価をさらに高めるには、成長投資と株主還元に対する考え方を今まで以上に明確に市場に示す必要性があろう。