日米通商協議と日本株

編集者の目2018年9月13日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

日本株の割安さが目立っている。9月10日時点の1年後利益に基づくTOPIX(東証株価指数)ベースの予想PERは13倍と、国民投票で英国がEUから離脱することとなり、リスクオフで株式が売られた2016年6月のBrexit時以来の低水準にある。もとより、12年末に始まったアベノミクス相場5年9カ月の間、日本株は(1年後利益をベースとした)予想PERで概ね13~16倍のレンジで取引されて来たので、時間軸を延ばしても割安な状況にあると言える。それでは、どういった条件が満たされれば、本格的な割安修正が起きるのか。大きく3点、とりわけ、日米通商協議が最重要と見ている。

第1は、自民党総裁選挙での安倍首相の3選である。アベノミクス相場というのは安倍政権の経済政策を評価して始まったものである。安倍首相が自民党総裁に3度選ばれ、21年9月まで安倍政権の経済政策が継続されるかどうかは極めて大事である。特に、19年10月に予定される消費再増税や20年あたりに想定される米国経済の減速などを見込むと財政面からの景気下支えが必要で、積極的な財政政策を採ってきた安倍首相の3選を株式市場は望んでいる。

第2は、企業業績の好調が継続するかである。まず終わった18年度第1四半期の企業決算は大変良かった。主要上場企業で構成されるラッセル野村大型株(除く金融)ベースで、前年同期比8.4%増収、同16.9%経常増益であった。内外の景気が順調に推移したのに加え、為替がやや円安に振れる中、輸出企業の採算が向上した上、原油価格の上昇で石油企業の収益も好転した。加えて通信・インターネット関連の成長も寄与した。もっとも、第2四半期は西日本豪雨、台風21号による関西国際空港の高潮被害、北海道地震による道内最大の火力発電所の被災など、災害が多く発生し、消費や投資活動に水を差した。その意味で、10-11月に発表される18年度上期決算が注目される。さまざまな不透明要因はあるが、当社アナリストの第2四半期見通しは前年同期比3.3%経常増益予想と比較的保守的だ。為替の円安と企業の自助努力が勝り、企業業績の上方修正が引き続き期待できると見ている。ちなみに、ラッセル野村大型株(除く金融)のアナリスト予想は18年度上期が前年同期比8.1%経常増益、18年度通期が前年度比11.3%経常増益、それに対して同会社予想は18年度上期が同6.0%経常増益、18年度通期が同5.5%経常増益と保守的だ。

第3は、日米通商協議での自動車の高関税回避だろう。米通商政策に関する米国野村のエコノミスト予想によれば、商務省が自動車の輸入を国家安全保障上の脅威と判断し、関税あるいは数量制限の実施を勧告する確率は85%、関税発動の確率も75%の高率である。もし、トランプ政権が25%の高関税を日本から米国へ輸出している自動車(17年実績174万台)と自動車部品合わせて5兆5300億円(17年実績)にかけた場合、追加関税額(現行の関税率は2.5%)は1兆2400億円となり、完成車5社(トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダ、SUBARU)の年間連結経常利益の25%に達する巨額なものになる。日本経済、日本産業の屋台骨を支える自動車への高関税回避は待ったなしであろう。そのために、日本側が持つカードは(1)牛肉等農畜産品の関税引き下げ、(2)米国のインフラ投資への資金・技術面での協力、(3)防衛装備品の購入拡大などと想定される。ここから、11月6日の米中間選挙までの2カ月弱の間にこれらのカードを効果的に使い、トランプ政権を説得することが欠かせない。

以上3点が実現すれば、日本株が予想PER13倍(米国株の予想PERは概ね16.5倍)の低位に放置される理由はなくなるだろう。18年末までにTOPIXで1850、日経平均株価で24,000~25,000円まで上昇する可能性は十分あるだろう。

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