2018~20年度の経済見通し
-問われる景気下ぶれリスクへの対応力-

論文2018年11月20日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、水門 善之、棚橋 研悟、髙島 雄貴

目次

  1. I.日本経済:問われる景気下ぶれリスクへの対応力
    1. 自然災害、グローバル景気、消費増税を反映した見通し改定
    2. 輸出は目先回復、全体として鈍化傾向
    3. 鉱工業生産も全体的に鈍化傾向を予想
    4. 設備投資は比較的底堅い推移を予想
    5. 18年夏場の雇用者数は野村想定通り横ばい圏
    6. 夏場減少した個人消費は、10-12月は反発を予想
    7. 消費増税を見込んだ住宅投資の駆け込み需要・反動減を予想
    8. 国土強靭化、消費税対応のための公共投資積み増しを見込む
    9. 19年10月の消費増税のコアCPI押し上げは1%程度と予想
    10. 金融政策正常化は極めてナローパス
    11. 日本経済見通し
    12. 世界経済見通し
  2. II.米国経済:景気刺激と保護主義のせめぎ合い
  3. III.ユーロ圏経済:金融政策に不透明感
  4. IV.英国経済:EU離脱(ブレグジット)交渉が見通しを大きく左右
  5. V.中国経済:最悪期はまだ先

要約と結論

  1. 2018年7-9月期GDP(国内総生産)1次速報値の公表を受け、18~20年度経済見通しの改定を行った。改定後の18~20年度の実質GDP成長率見通しは、前年比+0.8%、+0.6%、+0.5%である。これらは、前回9月10日時点の見通しと比べ、各年度がそれぞれ0.1pptの下方修正となっている。
  2. 今回の改定の主なポイントは以下の2点である。第1に、18年7-9月期GDPを含め、日本経済を取り巻く環境において従来の想定から変化した点を織り込んだ。18年7-9月期実質GDPの前期比マイナス成長の一因である自然災害等の影響を除いても、内外需の基調は従来見通しに比べ弱めに推移していると考えられる。これらの点が、成長見通しの下方修正に寄与している。
    第2に、これまで19年10月実施予定の消費増税について延期を前提としてきたが、これを実施前提に変更した。併せて、政府が検討している増税後の需要減対策や教育無償化の影響についても織り込んだ。増税に伴う負担増と、軽減税率導入、教育無償化を含めた広義の対策との差し引きでみると、消費増税に伴う成長下ぶれの影響は限定的であると予想する。
  3. 物価見通しについては、為替レートの前提変更(全体に円安方向に変化)、原油価格前提の変更(足元で原油高、先行き原油安方向)、に加え、成長率見通しの下方修正による需給ギャップ改善ペースの鈍化、を織り込んだ。消費増税の影響を除くコア消費者物価上昇率の前回見通しとの比較では若干の上方修正となる(18~20年度についてそれぞれ前年比+0.9%、+0.7%、+0.5%)。一方、教育無償化や携帯通信料引き下げの影響は、消費者物価計算上の取り扱いが不明であるため、現時点での予測には織り込んでいない。
  4. グローバルな循環に沿った国内景気の減速継続とそれに伴う物価上昇圧力の後退は、日本銀行金融政策の自由度を低下させる可能性が高い。一方、循環的成長減速に米中貿易戦争等の悪影響が加わり、内外景気が下ぶれるリスクに対し政策対応を迫られる可能性もある。この場合には、財政面での対応に重点を置かざるを得ない事態が想定される。今回、消費増税実施を前提としたが、予定通りの実施が確実になったとまでは言い切れないだろう。