投資サービスの『プラットフォーマー』を志向する米国金融機関

編集者の目2018年11月30日

野村資本市場研究所 執行役員 関 雄太

最近のICT産業においてプラットフォーム・ビジネスと言う場合、「基盤」となる技術やデバイス、あるいは商品やサービス・情報を集めた「場」を提供することによって、多数のユーザーと市場での優位性を獲得するビジネスモデルを指しており、そうした「基盤」「場」の提供者をプラットフォーマーと呼ぶことが多い。電子商取引におけるアマゾン・ドットコムや、スマートフォン(のオペレーティング・システム)におけるアップルやグーグルなどが、プラットフォーマーに相当しよう。

プラットフォーム・ビジネスにおいて、顧客のライフスタイルの根幹に関わる金融関連サービスは不可欠な要素であるはずだが、欧米においてITプラットフォーマー自身が金融サービスを展開している例、あるいは金融会社やフィンテック企業を買収する例はほとんどなく、金融サービスを行うとしても提携・連携を通じてアプリケーションを提供するなどの関わり方に留まっている。これは、欧米においては金融規制・監督が複雑かつ厳格で、特に商業活動と銀行の間の分離もしくは利益相反禁止原則が厳しいこと、既存金融機関のプレゼンスが大きいことなどが背景と考えられる。

こうした中、米国において、いくつかのプレイヤーが、リテール投資家向け資産運用におけるプラットフォーマー的な位置づけを徐々に獲得しつつあり、注目を集めている。

代表例は、チャールズ・シュワブ(以下シュワブ)である。1971年にディスカウント・ブローカーとして創業したシュワブは、1990年代後半にはオンライン・ブローカーとして躍進を遂げ、一時は中堅投資銀行や富裕層向け信託銀行を傘下に入れたものの、2000年以降のITバブル崩壊によって戦略を修正せざるを得なくなった。法人・富裕層ビジネスから撤退する一方、多額のIT投資で培った先進的なプランニングツール・レポーティングシステムによるガイダンスを生かしながら、マスアフルエント層に投信スーパーマーケット(乗り換え自由型プログラム)、投信ラップ口座(投資一任契約)を積極的に提供する戦略に転換し、預かり資産連動フィーを中心にした収益構造を構築した。さらに、直近で1,140万件を超えた証券・投信口座保有者に対し、傘下の銀行を通じて預金・カードも提供、一方で証券担保ローンや住宅ローン貸出を積極化していることから、現在では純金利収入も有力な収益源となっている。

さらにシュワブは、仲介チャネルにもプラットフォームを拡げている。元々、シュワブの「アドバイザー・サービス部門」は、カストディとして登録投資アドバイザー(RIA、小規模投資顧問業者)に顧客資産管理・執行・決済のための各種サービスとITシステムを提供していた。ところが、2008年の金融危機を機に、メリル・リンチなどの大手証券会社から独立してRIAを設立するファイナンシャル・アドバイザーが続出、優れたツールやレポーティングシステムを有し、富裕層顧客に直接マーケティングをしないシュワブをカストディに指名するRIAが急増した。2018年9月末現在、シュワブの顧客資産は約3.6兆ドルと、モルガン・スタンレーの約2.5兆ドル、メリル・リンチの約2.4兆ドルを圧倒しているが、アドバイザー・サービス部門の顧客資産が1.7兆ドル近くを占めており、アドバイザーが顧客資産管理のプラットフォームを大手証券からシュワブに乗り換えたとも見れる状況が出現している。

もうひとつのプラットフォーマーがフィデリティ・インベストメンツである。日本では投信運用会社としてのイメージが強い同社だが、「インターネット+コールセンター+コンサルタント」および「職域+個人」のマルチチャネルを通じて2,670万件の証券・投信口座を抱える米国最大のリテール証券会社でもある。今も年間100万~200万件ペースで口座数を増やしているフィデリティの成長の源泉は、確定拠出年金(DC)を中心にした退職貯蓄の獲得であり、しかもDCプランの運営管理機関として断トツの地位を占めることで、退職後の金融資産の移管・管理に結びつける大がかりなマーケティング戦略を展開している。さらに、シュワブと同様にRIAなどにもツールやサービスを提供しており、401kプランなどすべてを含めると、フィデリティが「管理する」顧客資産(Asset under administration)は6.8兆ドルを超えている。

投信ビジネスの市場規模が巨大で、開発・運用・販売のアンバンドリングが進展している米国ならではという事情はあるが、シュワブとフィデリティのケースは、大手銀行グループの傘下に入らず、機関投資家・法人部門を持たなくても、プラットフォームを構築しスケールと成長性を追求できることを示しており、日本の金融機関に対する示唆にも富んでいると言えよう。

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