米利上げ休止が視野、証券投資戦略への含意

編集者の目2018年12月27日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

野村のエコノミストによると、世界の実質GDP成長率は、2019年が3.6%、20年が3.5%と予想され、18年の推定3.9%から減速が進む見通しだ。ただ、不況期入りの目安である3%成長にはまだ距離がある。にもかかわらず、18年10月以降の世界株式の弱さ、変動率の高さの理由は何か。1つは、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ政策への懸念である。18年10月3日にパウエル議長は、9月の利上げでFF(フェデラル・ファンド)金利が2%台に乗せ、景気を加速も減速もさせない中立金利に近づいている中で、米国の政策金利は景気に中立的な水準には遠いと発言、10月の米国株急落の引き金を引いた。2つ目は、米中貿易戦争による中国経済の減速と欧米自動車、日本資本財等の輸出企業への波及であろう。トランプ政権が中国からの輸入品340億ドルに25%の高関税をかけた18年7月以降、中国の消費、投資マインドが悪化し、中国経済の減速が始まったが、景気重視に政策転換したとされる現在でも下げ止まった感じになっていない。

したがって、この2つが今後どうなるかが証券投資戦略を左右しよう。まず、FRBは中国等の海外経済の減速の悪影響を認識、18年12月利上げの後、19年の利上げ見通しを3回から2回に引き下げ、タカ派(金融引き締め重視)姿勢を修正してきている。タカ派姿勢を修正したにもかかわらず株式市場が評価できないのは、パウエル議長によるコミュニケーションが不十分なことだろう。それは、12月19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見を受けて米国株安に拍車がかかったことが示している。パウエル議長は19年3月の利上げを見送るメッセージを送るべきであった。2つ目は、18年12月から始まった米中の貿易協議の成否と中国政府による大型の追加景気対策発動の有無だろう。米中協議において、米国は技術覇権に繋がる「中国製造2025」阻止と短期的な景気に関わる関税問題を切り分け、かつ世界景気の安定に資する大型景気対策を中国に求めたら良いだろう。

いずれにしても、株式にとって良好なシナリオは、FRBのハト派(景気重視)化、すなわち19年3月利上げ見送りであり、19年2月末までの米中貿易協議の進展ないし継続協議であり、19年3月の全国人民代表大会での中国政府による大型景気対策の発動だろう。これらは、米国でのインフラ投資の実現可能性と合わせ、トランプ氏が20年秋の大統領選挙で再選されるために必要な20年の米国経済堅調に繋がると見られ、それが故に可能性はあると見ている。この場合は、3月から5月にかけて米国株の相場上昇が期待される。一方、上記の条件が整わないと19年後半から終盤には中国経済の減速だけでなく、20年の米国景気の減速、後退が現実味を帯びてくるため、すでに一部始まっている米国債中心の債券投資シナリオが一段と有力となろう。日本株については、19年7月の参議院選挙ないし衆参ダブル選挙に向けた日本とロシアの平和条約交渉及び政府の消費税対策、ソサイエティ5.0を軸とした成長戦略の再起動の成否が重要だろう。米国株の上昇に日本株要因がプラスになるか注目される。もちろん条件が整わないリスクも相応にある。慎重な見極めが欠かせない。

さて、FRBによる利上げ休止が視野に入り、いずれ米金利上昇や米ドル高に歯止めがかかることは、ドル建て債務を多く抱える新興国に対する金融面からのストレスを緩和する効果がある。また、世界経済の減速は、資源需要の減速を背景とする原油価格や商品市況の下落を通じ、エネルギー効率が先進国に比べ見劣りする新興国経済にプラスとなろう。向かい風が止み、一部は追い風に転じる中、やや遅れて新興国経済の改善が期待できるとすれば、新興国金融資産の割安感に着目した投資が再開されてもおかしくない。事実、インドルピー、インドネシアルピア等の新興国通貨は18年10月前後で下げ止まり、安定の兆しを見せている。

もちろん、各国政治の動向には目配りが必要だ。トルコでは19年3月に統一地方選挙を控える。景気減速が本格化するなか、トルコ政府、特にエルドアン大統領がトルコ中銀への利下げ圧力を再び強めないか、気になるところだ。その他の地域でも、タイ(2月)、インドネシア(4月17日)、インド(4~5月)、南アフリカ(5月)、ポーランド(11月)と重要選挙を控えている。こうした環境の中、新興国通貨への投資は選別的に行う必要がある。インドやインドネシアは、相対的に政治リスクは低く、インフレを始めマクロ環境も安定的である。19年は資金流入が回復する公算がある。

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