2018~20年度の経済見通し
-世界経済の潮流変化に直面-

論文2019年2月20日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、水門 善之、棚橋 研悟、髙島 雄貴

目次

  1. I.日本経済:世界経済の潮流変化に直面
    1. 世界経済の不確実性増大が高める下ぶれリスク
    2. 19年前半の輸出見通しを下方修正
    3. 年明け後の鉱工業生産は弱め、在庫調整リスクは高くない
    4. 外需の減速受け設備投資下ぶれの可能性高まる
    5. 先行き雇用環境は軟化見込み
    6. 19年10月の消費増税を控えた駆け込み消費が現れ始めた
    7. 住宅にも駆け込み需要が現れ始めた
    8. 公共投資が景気を下支え
    9. 為替前提を変更、インフレ率予想を下方修正
    10. 日本銀行に残された緩和余地は限定的
    11. 日本経済見通し
    12. 世界経済見通し
  2. II.米国経済:低成長に移行
  3. III.ユーロ圏経済:ECBの次の一手に注目
  4. IV.英国経済:利上げは後ずれ、ペースもダウン
  5. V.中国経済:最悪期はまだ先

要約と結論

  1. 18年年末から19年年初にかけての日本の経済活動には、世界経済の不確実性増大の影響が反映されはじめている。2月14日公表の18年10-12月期GDP1次速報値を受けた日本経済見通し改定にはこうした影響を反映した。2018~20年度の実質GDP成長率予測値は、それぞれ前年比+0.5%、+0.4%、+0.6%である。前回18年12月10日時点の予測値と比べ、全体としては下方修正となっている。具体的には、18、19年度がそれぞれ0.1、0.2pptの下方修正、20年度については0.1pptの上方修正である。野村では、19暦年前半の中国経済の落ち込みが大きいと想定していることもあり、19年度の実質輸出を前回比-1.2pptと大きく下方修正した。一方、19年後半以降は、グローバル経済活動は安定化に向かうと考えている。
  2. 一方、内需全般については、大幅な落ち込みを見込んでいない。構造的な人手不足を反映した雇用・就業の増加基調が維持される可能性が高く、家計の所得環境が良好に推移すると見込まれる。加えて、政策的な需要が内需の下支えに寄与すると予想される。19年10月の消費増税に対しても、比較的手厚い影響軽減策が講じられる。その一環でもある、防災・減災、国土強靭化に関連した公共事業も、実質公共投資を押し上げるとみられる。
  3. こうした内需の底堅さを前提としても、19年度実質GDP成長率は、ゼロ%台後半と想定される潜在成長率を相当程度下回る可能性が高い。ドル円レートの前提を円高方向に修正したこともあり、消費者物価上昇率(除く生鮮食品。消費増税、教育無償化の影響を除くベース)は、18~20年度についてそれぞれ、前年比0.8%、0.4%、0.4%と、減速基調が続くと予想する。
  4. 世界経済の不確実性増大を受け、米国の金融政策の先行きに関する見通しが大きく変化したことから、18年年末から19年年初に発生した金融市場の動揺を終息させた。しかし、緩和的金融環境への期待が浮上する下でも、グローバル景気の下ぶれがなお継続した場合には、金融市場の不安定化が再燃する可能性は排除できない。こうしたケースにおいては、消費増税再延期も含めた追加的政策対応を余儀なくされる可能性が完全には排除できないであろう。