FRB利上げ停止で、米景気拡大戦後最長へ

編集者の目2019年2月27日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、2019年1月30日のFOMC(米連邦公開市場委員会)終了後の記者会見で、事実上の利上げ打ち止め宣言を行い、FRBの金融政策を大きくハト派(景気重視)化させた。わずか1カ月前の18年12月19日のFOMCで19年の利上げ回数予想を3回から2回に引下げたものの、次の一手は利上げだとしていたスタンスを一変させ、次の一手は利上げではなく、利上げなしとしたのであるから、金融市場は驚き、株高、債券高、ドル安で反応した。その後もFRB関係者からはハト派的発言が相次ぎ、2月19日にはFOMCの副議長を兼任するニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が議長発言よりも踏み込んで利上げ打ち止めを示唆したのに加え、FRBのバランス・シートの縮小についても19年末までに終了すると示唆し、金融市場を安堵させた。

ここまで、FRBが急速にハト派化した理由はなにか。第1は、昨年10~12月の株価急落の影響が大きかったことだろう。ダウ工業株30種平均は18年10月3日の2万6,828ドルから12月24日には2万1,792ドルへと約5,000ドル、率にして18.8%下げた。1987年10月のブラック・マンデーほどではないが、3カ月に満たない短期間にここまで下げたのはあまり記憶にない。このまま放置すると米景気後退を招きかねないとの危機感がFRB内に生じたとしても不思議ではない。第2は、米中貿易戦争による中国経済の減速が欧米自動車、米国スマートフォン、日本資本財等のグローバル企業の業績悪化に波及してきたことだ。トランプ政権が中国からの輸入品340億ドルに25%の高関税をかけた18年7月以降、中国の消費、投資マインドが悪化し、中国経済の減速が始まったが、景気重視に政策転換したとされる現在でも底を打った感じになっていない。第3は、欧州経済の悪化だろう。特に、ユーロ圏の盟主であるドイツ経済の減速が目立っている。中国向け輸出の悪化、自動車のペントアップ需要の一巡等が関係していよう。加えて、英国のEU(欧州連合)離脱問題の混迷も不透明感を高めている。要は海外に目を転じると、景気減速要素が多くあり、そのことに配慮する必要をFRBは認識したということだ。

それでは、FRBのハト派転換はどういった帰結をもたらすのか。第1の帰結は、米景気拡大の長期化である。米景気の底はリーマンショック後すぐの09年6月であった。したがって、今年19年6月には09年7月からの景気拡大は丸10年となる。戦後の最長記録は91年4月から01年3月までの丸10年であるが、今年6月にはこれと並び、7月には戦後最長となることはほぼ確実だ。それどころか、景気に中立的なFF(フェデラル・ファンド)金利の水準が2.5~3.0%とされる中、現在の2.375%の水準で19年一杯利上げ停止となると、金利政策の実体経済に与えるラグが1年程度はあるので20年末頃まで景気拡大が続くこともありえよう。そうなると景気拡大は11年半と空前の長さになる可能性がある。もっとも、FRBが重視するPCE(個人消費支出)デフレーターが目標の前年比2%を大きく上回る場合は利上げ再開となろうが、少なくとも19年中は2%近傍にとどまり、利上げ停止が続く公算が高そうだ。

第2の帰結は、トランプ大統領の再選の可能性に繋がることだろう。トランプ氏は野党民主党に有力な大統領候補がいない中、20年秋の大統領再選に強い意欲を持っているとされる。そうした中にあって、景気拡大の持続に最も影響力を持つFRBの金融政策がハト派化したことの意味は大きい。また、米中貿易協議についてもまとまる方向で議論が行われている。もちろん、中国が鄧小平主義に戻らない限り、米国の中国に対する厳しい安全保障政策、通商政策は変わらない。しかし、20年の大統領再選戦略を考えると、中国景気が悪化するシナリオもリスクとなる。このため、技術覇権に繋がる中国製造2025計画阻止と短期的な景気に関わる関税問題を切り分ける可能性が高い。19年3月1日までの交渉は1カ月程度延長されたが一定の合意をみるだろう。なお、民主党が18年11月の中間選挙で下院を制したので、ロシア疑惑に関連し下院が大統領の弾劾に向けた動きを始める可能性は残る。ただ上院で共和党は議席を増やしている。かつ上院の3分の2が賛成しないと弾劾はなされない。いずれにせよ、大統領選挙はまだ1年半以上先の話であり不確実性がつきまとうが、米景気拡大の長期化は大統領再選とも絡み、政治的にも大きな意味をもつことになろう。

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