日本企業ボトムアップ企業業績見通し集計(18~19年度)
-予想以上に脆弱だった-

論文2019年3月4日

野村證券 市場戦略リサーチ部/エクイティ・リサーチ部 松浦 寿雄、藤 直也

目次

  1. I.概要と業績予想主要前提
    1. 2018年度予想の概要
    2. 2019年度予想の概要
  2. II.業種別・経常増減益寄与率
    1. 2018年度予想の概要
    2. 2019年度予想の概要
  3. III.経常利益予想修正(前回予想からの修正)
    1. 2018年度予想の概要
    2. 2019年度予想の概要
  4. IV.集計表

要約と結論

  1. 日本企業の業績悪化が鮮明である。2018年度Q3業績は、Russell/Nomura Large Cap(除く金融)で前年同期比5.9%増収、同17.2%経常減益となった。16年度Q2以来の減益局面である。18年度Q2業績は同7.5%増収、同9.8%経常増益であったので、Q2からQ3にかけて増収率が1.6%ポイント低下する一方、経常増益率は27.0%ポイントの低下となった。
  2. 会計的要因や一時的要因が大きく影響した企業の存在によって、Q2業績は押し上げられた一方、Q3業績は押し下げられた。そういった企業を可能な範囲で除外したQ3業績は、増収率が前年同期比3%程度、経常減益率が同7%程度であった。同じベースで見たQ2業績は、増収率が同4%程度、経常増益率が同1%程度である。
  3. 実体ベースでは、Q2からQ3にかけて増収率が1%ポイント低下したのに対して、経常増益率が8%ポイント低下したことになる。18年度Q2決算では増収率の低下に比べて経常増益率の低下が大きいとの印象を受けたが、それは一時的な事象ではなかったようだ。従来、企業業績は「粘り腰」を見せ、18年度Q4~19年度Q2は増益維持が可能と見てきたが、足元の脆弱な姿を見ると、当面は減益が続く可能性が高い。
  4. 18年度のボトムアップ予想は、Russell/Nomura Large Cap(除く金融)で前年度比5.0%経常増益予想となった。Q4は季節的な要因に加え、足元で構造改革モードに入る企業も出始めたことから、外部から業績を予想するのは一段と難しくなる。通期のボトムアップ予想から逆算したQ4業績予想は前年同期比15%経常増益予想となる。
  5. 前年度のQ4業績は前年同期比0.2%経常増益にとどまったため、一定の反動増は期待できるだろうが、それでも2桁増益は現実的でない。増収率はQ3からQ4にかけてもう一段低下する可能性が高く、トップダウンの観点から見たQ4業績は同9%程度の経常減益、実体で同15%経常減益を予想する。Russell/Nomura Large Cap(除く金融)の18年度経常利益は会社予想(前年度比3.2%経常増益)も下回り、横ばい圏と見る。
  6. 19年度のボトムアップ予想は、Russell/Nomura Large Cap(除く金融)で前年度比1.8%増収予想、同7.5%経常増益予想となった。仮にボトムアップ予想通り、18年度を無事に増益で着地することができ、今回の見通しが実現するのであれば、年度ベースでは8期連続の経常増益と、連続増益記録を更新することになる。
  7. 年度末をまたげば構造改革の動きは小休止しよう。現状で予想されるマクロ環境からは、業績が上向くほど増収率の加速を期待するのは当面難しい。ボトムアップ予想でも、19年度上期は前年同期比0.3%増収予想にとどまる。「増益率に回復感が台頭してくるのは19年度Q3」というのがメインシナリオとしながら、中国の景気対策を見守ることとなろう。世界的な景況感さえ改善すれば、今回の逆となる。増収率は上ぶれ、増益率にストレートに好影響がもたらされる。ただ、問題はその後である。
  8. 前回の減益局面であった15年度Q3~16年度Q2は「減収減益」であり、当時は減収率も相応に大きかった。今回は「増収減益」という点が気にかかる。前回の増収減益局面は、11年度Q2~12年度Q2であった。恐らくは企業業績が中期的に拡大する過程で、固定費は着実に増え、日本企業の収益構造は悪化しているのだろう。「世界景気急回復」(およびその持続性)という神風に期待を置かないのであれば、この機に収益構造を改善させなければ、循環的業績回復の後に待ち受けるのは「減益」となる。20年度以降の増益軌道を描くためには、例え目先の業績悪化が深くなったとしても、足元の減益局面を「意志ある減益局面」と位置づけることが必要条件となろう。