EV to Home(V2H)-太陽光発電とEVに相乗効果
論文2019年3月5日
野村證券エクイティ・リサーチ部 松本 繁季、桾本 将隆
目次
- I.EV to Homeとは何か?
- EV to Homeのメリット:電気代節約、CO2フリー、停電への備え
- 三菱電機のSMART V2H
- ニチコンのトライブリッド蓄電システム
- II.なぜ今EV to Homeなのか?
- 再生可能エネルギーの拡大は不可避な流れ
- 再生可能エネルギーが普及すると系統の安定維持が困難に
- 2019年問題~「卒FIT」
- FIT価格の下落
- 再エネ導入拡大に伴う問題に対しEVが有効な解決策へ
- 政府が「卒FIT」に関する審議を始めた
- III.EV to Homeの経済性を試算
- 最初からEVを導入する場合、初期投資の回収期間は12~15年
- FIT期間終了後にEVを導入する場合、初期投資の回収期間は12~14年
- IV.EV to Homeの普及可能性、潜在市場
- Ⅴ.EV to Homeの発展可能性
- Virtual Power Plant(VPP)を活用したVehicle to Grid(V2G)
- 住友電気工業のVPPへの取組み
- P2P(電力の個人間取引)
- Ⅵ.EV to Homeの普及により恩恵を受ける企業群
- 太陽光パネル、パワコン、住宅、設置工事、V2G・VPP、EV
- 電力会社への影響
- ESGへの取組みにも合致
- EV to Home(V2H)は、電気自動車(EV)を家庭用蓄電池として活用することでV2Hとも称される。昼間に太陽光発電(PV)の余剰電力をEVに充電し、夜間にその電気を利用することで電気代を節約できる。電力需要を CO2フリーのPVだけで賄えれば、環境意識の高い家庭には訴求力となる。停電した場合はEVに充電してある電気を利用でき、災害時への備えにもなる。
- EVの普及が本格化しつつあるのに加え、COP21(パリ協定)をはじめ国際的に火力発電の縮小・PVなど再生可能エネルギーの拡大は不可避となりつつある。天候により出力が大きく変動するPVが拡大すると、電力系統の安定維持が技術的に難しくなるが、EVバッテリーの活用がこの問題を解決する一助となる。日本では、家庭用PVの買取期間が2019年11月から順次終了し(「卒FIT」問題)、対象家庭では売電収入が大幅に減少するため、V2H市場が拡大する可能性がある。V2HではEVをガソリン車の代替だけでなく蓄電池としても有効利用するため、定置式蓄電池に比べ初期投資を抑えられ、経済的なメリットを享受しやすい。
- 野村では、PVとEVを同時に導入した場合と、FIT期間終了後にEVを導入した場合の初期投資の回収期間を、各々12~15年、12~14年と試算している。 FITにより買取価格が10年間保証されている中、PVは急速に普及した。V2Hも10年程度で初期投資を回収できれば、普及が加速する可能性がある。そのためには、機器の価格下落、政府による補助金給付、EVとガソリン車の価格差の縮小が必要であろう。19~27年にFIT期間が終了する家庭は218万戸もあり、V2Hの潜在的な国内市場は大きい。中長期では、EVをVPP(仮想発電所)に活用するV2G、電力の個人間取引など、新たな事業機会も見込める。
- 日産自動車、三菱自動車に加え、パワーコンディショナメーカーであるニチコン、三菱電機は、V2Hを積極的に推進している。住友電気工業はVPPの制御を手掛ける。東京電力ホールディングス、中部電力は、蓄電池を保有しない家庭向けにPVの余剰電力を預かり、それを自由に使える新サービスの導入を検討している。 V2Hの普及は、CO2削減、災害時の備えといった点でESGへの取組みでもある。