アセットマネージャーの大型化とグローバル資産運用業界の潮流

編集者の目2019年3月18日

野村資本市場研究所 執行役員 関 雄太

2018年10月18日、米国の上場資産運用会社インベスコが、保険グループのマスミューチュアル傘下にあった投資信託運用会社オッペンハイマーファンズを株式交換方式により買収することを公表した(19年第2四半期<4~6月期>中に統合完了予定)。買収価額約57億ドルは、近年の米国資産運用業界のM&A(合併・買収)でも最大規模のものとなった。

このM&Aは、グローバル資産運用業界における3つの潮流を反映していると考えられる。

第1に、トッププレイヤーの大型化という潮流である。17年末のAssets Under Management(AUM、運用資産)で見た世界の資産運用会社ランキング(ウィリス・タワーズ・ワトソン調べ)を見ると、1位のブラックロックを筆頭に19位までがAUM1兆ドルを超えており、上位ほどAUMの成長率が高いという傾向がある。17年末のデータから推計されるインベスコとオッペンハイマーファンズの統合AUMは1.1兆ドル強に達すると見られ、17年末のランキングに照らせば17位相当となることから、インベスコの経営判断には「グローバルトップ20入り、AUM1兆ドル突破」という目標があったと見られる。

第2に、アクティブ運用の苦境である。米国における投資信託(MMF<マネー・マーケット・ファンド>除く)の構造をアクティブ投信とパッシブ投信(ETF<上場投資信託>含む)に分けると、残高(18年12月末時点)ではアクティブが約10.3兆ドルと、パッシブ・ETFの約6.5兆ドルを大きく凌駕しているにもかかわらず、資金フローではアクティブ側が15年以降、4年連続の巨額の資金流出を記録している(モーニングスター調べ)。会社別に見ても、パッシブ投信大手のバンガードやiShares(ブラックロックのETFブランド)が急成長を遂げる一方、キャピタルなどのアクティブ主体の運用会社はトップクラスでも苦しく、インベスコ、オッペンハイマーの両社も、この数年は連続的な資金流出に悩んでいた。

こうした状況にも関わらず、両社が統合に踏み切ったのは、米国の経済や株式市場のサイクルから見てもアクティブ運用の低調はそろそろ終了し、復調に向かうはずという見込みと、ファンド数を減らし間接費・固定費を削減するなどの効率化によって収益性を改善したいとの狙いからであろう。実際、18年前半は、米国においてアクティブ投信のパフォーマンス改善、人気復調の傾向が見られていた。しかし、同年10月以降の株価下落によって、再びアクティブ投信からの資金流出が顕著となり、また欧州におけるアクティブ運用会社の大型統合の先行事例であるスタンダードライフ・アバディーンでは17年8月の統合以降、旗艦ファンドのパフォーマンス悪化や人材の流出、株価下落など問題が続いており、運用会社の統合の難しさを改めて印象づけている。

第3に、インベスコとマスミューチュアルの動きは、非系列化・オープン化といった、投資信託のディストリビューション(販売)側での動きを反映している可能性が高い。インベスコのリテール投信部門は、09年にモルガン・スタンレーから取得した事業部門が中核であるためか、いまだにモルガン・スタンレー等の一部証券会社への販売依存度が高かった。一方、オッペンハイマーのディストリビューターは顔ぶれがかなり異なっているためシナジー効果が期待でき、米国で資産運用専業としてRIA(登録投資アドバイザー)に販売先を広げたいという意向もあろう。また、オッペンハイマーを売却したマスミューチュアル傘下には、MMLインベスターサービスという8,000人規模のアドバイザーを有する準大手証券会社があり、中途半端な規模の関係会社が運用するプロダクトを販売し続けるよりも、グループに運用会社がない状態を作り出して、リテール顧客にアドバイスの中立性を打ち出すことが得策と考えた可能性も高い。なお、投信ビジネスにおける運用・販売のアンバンドリング(分離)と再編は、英国でも活発化しており、ある意味でグローバルな潮流となりつつあることには留意が必要である。

上記のように、米欧運用会社のM&A戦略は単に大型化を狙ったものだけではなくなってきているが、あらゆる金融機関がアセットマネジメントの重要性を謳う中、今後もさまざまな再編が起こることは間違いなく、こうした動きは日本の金融業界にも少なからず影響を与えるものと考えられよう。

[参考文献]
  • ・荻谷亜紀「個人向け金融商品販売制度改革(RDR)以降の英国投資サービス業界における製販融合の動き」『野村資本市場クォータリー』2016年秋号
  • ・神山哲也・岡田功太「アクティブ運用の苦境と資産運用業界再編の可能性」『野村資本市場クォータリー』2017年冬号
  • ・神山哲也「スタンダード・ライフとアバディーンの合併」『野村資本市場クォータリー』2017年春号
  • ・岡田功太・下山貴史「米国の独立系ファイナンシャル・アドバイザーを巡る近年の動向」『野村資本市場クォータリー』2019年冬号

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