長引くドイツ経済の減速、財政政策活用も必要か

編集者の目2019年3月26日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

ドイツ製造業の下振れが止まらない。2019年3月22日に発表されたドイツの3月製造業PMI(購買担当者指数)速報値は、好不況の分岐点である50を大きく下回る44.7(19年2月47.6)まで悪化し、世界景気後退への警戒を再燃させ、欧米株安と長期金利の大幅低下の引き金となった。特にドイツ10年国債金利がマイナス0.02%と16年10月以来となるマイナス金利となった上、米国の3カ月物財務省証券金利と米10年国債金利が12年ぶりにわずかとは言え逆転し、景気後退懸念を改めて想起させた。ちなみに、3月22日に同時に発表された米国の3月製造業PMI速報値は52.5、同様に日本の3月製造業PMI速報値は48.9で、ドイツの下振れが目立っている。

このドイツ製造業の下振れの要因はなにか。第1は、ドイツ製造業の中国依存度が高く、18年夏以降の中国経済の減速、具体的には自動車需要と資本財需要の減少の悪影響を大きく受けていること、第2は、ギリシャ危機後の回復をリードしてきた自動車の買替え需要が一巡し、かつ18年秋の排ガス規制に対応できない企業があり、主力の自動車産業の生産減が響いていることだ。ドイツには、日本にはある電子部品、半導体製造装置のような電子関連の成長分野が少なく、自動車と機械のウエートがより高い。この点も今回の調整を大きくしているように思える。もちろん、3月のサービス業PMI速報値は54.9で、3月の総合PMI速報値は51.5と50をなお上回っているが、近年になくドイツ経済の減速が目立つことは明らかだ。事実、実質GDP(国内総生産)成長率は18年7~9月期が前期比マイナス0.2%、10~12月期が同0.0%で、19年1~3月期も同0.2%と若干のプラス成長に止まると野村では予想している。ここまでゼロがらみの成長が続くと財政政策で内需拡大をすべきだが、相変わらず前向きな議論が行われないのは不思議だ。

そもそも、ユーロ圏の最大の問題は金融政策が欧州中央銀行(ECB)に一本化されている半面、財政主権は各国に残り、財政統合、具体的にはユーロ圏共通予算もないという片肺飛行を続けていることだ。本来であれば、こうした景気減速局面ではユーロ圏の盟主であるドイツが自国とユーロ圏の景気拡大のため財政拡張策を採るべきだが、メルケル政権は相変わらず財政健全化に拘り、財政拡張に消極的である。たとえは悪いが、ユーロに加盟したことで、ドイツマルク時代より安い通貨を手にし、強い産業競争力を武器に中国などの新興国向けの輸出を大いに伸ばし、稼いだお金は金庫に入れたままで、あまり使わないのがドイツ流なのである。ユーロ圏の共通予算を創設し、ドイツが率先して金庫からお金を出し南欧諸国にインフラ投資の形でケインズ的な政策をとれば、イタリアに反ユーロ政権などできなかったかも知れないのである。そうすれば、イタリアがドイツ、フランスの説得を振り切って「一帯一路」で中国と連携することもなかったであろう。まして、中国向け輸出の低迷で、自国の経済成長が大きく鈍化している今、ドイツはユーロ圏共通予算以前に自国の成長のために、財政政策を使うべきだろう。

もしこのまま手をこまねいていると、ユーロ圏にデフレリスクを招く恐れもなしとしない。ドイツ10年国債利回りがマイナスになったことの意味は小さくない。実際、ECBは3月7日の政策理事会で、ドイツ経済の予想以上の減速を主因に経済、物価見通しを大幅に下方修正し、政策金利を現行水準で据え置く期間を従来の「19年夏の終わりまで」から「19年末まで」に延長した。この「19年末まで」という意味が、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ停止で米国経済の拡大が19~20年と続き、19年後半から中国の経済対策が効き中国経済の回復が始まるのを待つ、それまでの辛抱と考えているとすれば、他力本願が過ぎると言えるだろう。メルケル政権には、自国の経済停滞を打破する触媒としての財政拡張策とユーロ圏の共通予算の創設問題への積極的な対応を求めたい。ECBにかかる負担も小さくなるはずだ。

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