日本でのESGへの取り組みと課題
-企業統治改革を中心に-

論文2019年4月23日

野村資本市場研究所 西山 賢吾

目次

  1. I.はじめに
  2. II.19年株主総会の注目点
    1. 改訂CGコード関連で議決権行使基準見直しが進められる
    2. 議決権行使助言会社の助言方針改定
    3. 対話の深化と議決権行使
  3. III.CG改革に関連する諸制度の動き
    1. 改訂CGコードへの対応
    2. FU会議での議論
    3. 「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正
    4. 市場構造の在り方
    5. 「公正なM&Aの在り方に関する指針」の検討
    6. 「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」案
    7. 残された「支配権の移転」に関する論点
  4. IV.ESG関連の現状
    1. 拡大する我が国のサステナブル投資
    2. SDGsの企業経営への取り込みを期待
    3. 環境、社会に関連した動きとその対応
    4. 日本の個人投資家とESG投資
  5. V.おわりに

要約と結論

  1. 2019年の株主総会における上程議案で最も関心が高いのは取締役選任議案であり、特に、(1)取締役選任議案において社長等経営トップの賛成率の低い事例が増えるかどうか、(2)社外取締役の増員が進むかどうか、等が注目される。一方、役員報酬関連や政策保有株式などへの投資家の関心は高いが、これらは当面、企業との対話のテーマとして取り上げられることが多いであろう。スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードにおいて期待されている「対話の深化」は、株主の最終的な意思表示としての議決権行使の重要性を高めることにつながる。
  2. コーポレートガバナンス改革の実効性を高めるため、関連する各種制度の見直しも引き続き行われている。具体的には、有価証券報告書における役員報酬や政策保有株式に関する開示の拡充や、東京証券取引所の上場市場区分の見直しなどがある。また、上場子会社のガバナンスの在り方や、MBO(経営陣買収)、支配株主が存在する際のM&A(合併・買収)の在り方なども議論されている。しかし、TOB(公開買付)における部分買い付けや事前警告型買収防衛策など、支配権の移転に関する議論はまだ十分とは言えない。英国の諸制度などを参考に、今後議論が進むことに期待したい。
  3. 日本におけるサステナブル投資残高は18年3月末で約232兆円に上り、国際的に見てもESG(環境・社会・ガバナンス)投資は普及、定着したといえよう。しかし、個人投資家のESG投資への関心はまだ高いとは言い難く、ESGに関連した金融商品の拡大、普及は、今後投資家層を若年層に広げるためにも必要であろう。一方、ESGに関連したわが国での取り組みでは、(1)SDGs(持続可能な開発目標)の企業経営への取り込み、(2)TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言を受けた気候関連課題への取り組みと開示、(3)「ビジネスと人権に関する国別行動指針」の策定と、それに伴う人権に対する意識の向上と取り組みの積極化、などが注目される。
  4. 我が国のコーポレートガバナンス改革は原則主義ベースで進められており、ここまで一定の成果を出してきた。しかし、改革への取り組みや意識は一様ではないため、それらが低いところに対しいかにして改善を促し、改革へ取り組みや意識を向上させるかは、改革をさらに進める上での大きな課題である。原則主義が浸透している英国では、一部細則主義を取り入れたアプローチでこれら課題への対応を始めているように見え、今後我が国のコーポレートガバナンス改革を深化させる上でも、その帰趨が注目される。