令和の時代、日経平均の平成元年の最高値更新は可能か

    編集者の目2019年4月24日

    野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

2019年4月30日で30年余り続いた平成の時代が終わり、5月1日から令和の時代が始まる。株式市場にとって平成の時代は日本経済のデフレ化とともに苦難の時代であった。日経平均株価の高値はバブルの絶頂期の平成元年(1989年)12月29日の3万8,915円、安値はリーマンショック直後の大不況の最中に記録した平成21年(2009年)3月10日の7,054円であった。高値から安値まで実に81.9%の下げであり、経済は疲弊し、その年の8月の衆議院選挙で民主党が圧勝し、自公連立政権から民主党政権に政権交代が起きた。

しかし、民主党政権も鳩山、管、野田の3政権がほぼ1年ごとに交代しながら政治を担ったが、日本経済の再生は進まず、平成24年(2012年)12月の衆議院選挙で自民党が勝ち、政権を奪還し安倍政権が誕生した。安倍政権はアベノミクス、すなわち、金融政策、財政政策、成長戦略の3つの矢を使い、日本経済の再生に取り組み、雇用の拡大とともにもはやデフレではないというところまで漕ぎ着けることとなった。日経平均株価もバブル崩壊後の戻り高値であった平成8年(1996年)6月26日の2万2,666円を抜き、平成30年(2018年)10月2日に2万4,270円の高値を記録し、時代は平成から令和に移ることになった。

さて、令和の時代に、平成元年の最高値更新は可能なのか。時間はかかるものの可能性はあると見ている。政治が安定しデフレではない状況となり、名目GDPが増加し始めたこともあるが、最大の理由は日本企業の稼ぐ力がついてきていることだ。第1に事業の選択と集中が効いてきている。たとえば、素材産業では大規模な企業再編に加え、製油所、エチレンプラント等の能力削減やガソリンスタンドの閉鎖等による採算改善がある。また、加工産業ではPC、テレビ、携帯端末等を縮小し、エアコン、大型冷蔵庫等の白物家電、昇降機、高速鉄道等の社会インフラ、イメージセンサー、EV(電気自動車)用蓄電池等の部品事業に力を入れ、収益性を回復させている。

第2に、海外事業が販路の拡大、新製品の投入、M&A(合併・買収)の成功、構造改革の進展等で利益を生むようになってきた。塩化ビニル・高機能樹脂、炭素繊維、FA(ファクトリー・オートメーション)機器、タイヤ、自動車部品、タバコ・酒類、化粧品・紙おむつ、総合商社、衣料専門店、通信・インターネット等数多くのセクターで海外事業の収益性改善、向上が確認できる。

もちろん、20年の東京五輪後に急激な需要の落ち込みが発生するのではないかという懸念はある。しかし一時的な調整局面はあるものの、需要が大幅に悪化するようなことはないと見ている。それは建設技能工不足等で平準化せざるを得ない都市再開発案件が東京でも日本橋、高輪等多数あること、また25年には大阪・関西万博開催、27年には中央リニア新幹線開業等があり、建設需要は旺盛と見られるからだ。インバウンド需要も訪日外国人は18年の3,100万人が20年には4,000万人、さらに長期では観光立国のイタリア並みの5,000万人超が見込まれ、順調に拡大しよう。

技術革新の流れも続くだろう。AI(人工知能)、クラウドはグーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト等の米国企業が強いが、IoT(モノのインターネット)はエッジコンピューティング、センサー等日本企業の強みが生かせよう。データセンターでは大容量のNANDフラッシュが、自動運転ではイメージセンサーやパワー半導体が使われ、それらを生産する半導体製造装置も成長するだろう。もちろん、5G(第5世代移動通信)では、基地局やスマホ用に高周波フイルター、大容量積層コンデンサー等電子部品の成長が期待される。

日本企業の利益成長率は、年4%と相応の力をもつ。ラッセル野村大型株ユニバースの連結経常利益を過去のピーク局面と比較して利益成長率を計算すると、IT(情報技術)バブルのピークであった00年度と19年度(予想)の比較で年5.6%、リーマンショック直前の07年度と19年度(予想)の比較で年3.5%である。米国のS&P500のEPS(1株当たり利益)成長率は07年と19年(予想)で年5.8%であるので、日本の方が見劣りするが、日本経済の実質潜在成長率が年0.9%、米国経済の実質潜在成長率が年1.8%という母国経済の成長率格差を考えると多少見劣りすると言う表現が適切だろう。年4%の利益成長が続くと、令和12年度(2030年度)には連結経常利益は80兆円に達する計算だ。平成元年度の連結経常利益が概ね20兆円だったので、令和12年度には4倍となる。日経平均株価38,900円当時の予想PER(株価収益率)は60倍であった。4分の1の15倍を妥当PERとすると利益は4倍なので、令和12年度には38,900円に到達するとの試算も成り立つ。

もちろん、世界平和が保たれ、財政、金融、医療、年金等の諸制度が適切に運営されることが大前提ではあるが、(予想PERの低下で多少後ずれすることはあっても)令和の時代には日経平均の平成元年の最高値更新は可能ではないかと考えたい。

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