2019~20年度の経済見通し
-景気は底這い局面へ-

論文2019年5月27日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、水門 善之、植田 一政

目次

  1. I.日本経済:景気は底這い局面へ
    1. 景気後退、追加政策対応回避がメインシナリオ
    2. 輸出は持ち直しに向かうが米中貿易摩擦が重石
    3. 鉱工業生産は4-6月期に下げ止まり、その後は緩やかな回復
    4. 設備投資に底打ちの兆しあるが依然不透明感強い
    5. 雇用環境にも景気鈍化の影響が徐々に滲み出始めた
    6. 消費増税の駆け込みにより4-6月期は増加見込み
    7. 金融機関の貸家建設への融資姿勢厳格化が尾を引く
    8. 公共投資は増加基調入り
    9. 値上げの萌芽が見られ始めたがエネルギーによりコアインフレ率は下落
    10. 追加的政策対応の可能性
    11. 七年目を迎える成長戦略
    12. グローバル生産体制に再考を迫る米中貿易摩擦
    13. 消費増税を「耐えきる」販売戦略とは?
    14. 機械学習を用いた増税時の消費行動分析
    15. 日本経済見通し
    16. 世界経済見通し
  2. II.米国経済:低成長に移行
  3. III.ユーロ圏経済:成長回復は一時的か
  4. IV.英国経済:1-3月期の成長回復は持続するか?
  5. V.中国経済:本格的景気回復はまだ先

要約と結論

  1. 19年1-3月期GDP一次速報値公表を受け、19、20年度の経済見通しを改定した。改定後の実質GDP成長率見通しは、18年度実績の前年比+0.6%に対し、19年度が同+0.2%、20年度が+0.6%である。前回3月8日時点の見通しとの比較ではいずれも不変となっている。19年年初来の景気の急減速を受け、日本経済が景気後退局面に入ったとの懸念も台頭している。野村では、19年4-6月期以降は基調として緩やかな景気持ち直しが実現するとみている。今次景気拡大局面が19年1月に戦後最長のいざなみ景気に並ぶ前に途切れた、もしくは、戦後最長を更新した後途切れた可能性は低いだろう。
  2. 見かけ上は、19年度よりも20年度の実質成長率が上回るものの、その水準はゼロ%台後半とみられる日本経済の潜在成長率をやや下回るものである。日本経済の景気循環形成の原動力である実質輸出は、5月連休明けの米国による追加関税引き上げを起点とする米中貿易戦争再燃の影響もあり、持ち直しの足取りは極めて鈍いものとなろう。設備投資は、人手不足に対応した省力化・効率化投資などに支えられ、家計消費は、良好な雇用・所得環境の継続に支えられ、それぞれ底堅さを維持するとみている。ただ、民間内需は景気全体を加速させるには力不足であり、景気全体の下支えは、実質公共投資を中心とした政策需要に依存せざるを得ない状況が続くとみている。
  3. 底這い的な景気動向を反映した需給ギャップ改善の停滞により、インフレのモメンタムは一旦低下方向に向かうと考えられる。消費増税・教育無償化を含むコア(生鮮食品を除く)消費者物価上昇率は19年度が前年比+0.6%、20年度が同+0.5%(それぞれ前回見通し比横ばい)と、ゼロ%台半ばでの推移が続くとみている。
  4. 以上のような実体経済・物価動向を前提とした場合、景気下支えを理由とした消費増税延期や、追加金融緩和の実施は回避されると判断するのが妥当であろう。しかし、現下の米中貿易摩擦再燃など、グローバル経済を取り巻く不確実性の増大は、ともすれば、株価の大幅な調整、円高の再加速を伴った、いわゆるリスク回避的な動きをグローバル金融市場において招来するリスクを内包している。このような金融市場の混乱が現実化した場合、消費増税延期を含めた政策対応が打ち出される可能性は否定されないであろう。