ETFとTDF:21世紀最大の金融イノベーション

    編集者の目2019年5月31日

    野村資本市場研究所 執行役員 関 雄太

2019年5月20日、米国証券取引委員会(SEC)は、プレシディアン・インベストメンツが申請していたアクティブETF(上場投資信託)運用戦略(アクティブシェアーズ)を承認した。アクティブシェアーズのセカンダリー取引は指定証券会社と取引所を通じて通常の上場株式と同様に行われる一方、銘柄バスケット情報や純資産価値(NAV)を日次開示しない構造となることから、関係者の間ではノントランスペアレント(不透明な)ETFと呼ばれている。今後、プレシディアン・インベストメンツがライセンスを与えた運用会社がノントランスペアレントETFを上場する見通しであり、米国ETF市場にまたもや革新的なプロダクトが登場すると注目されている。

振り返れば、ETFはこの20年間に進展した金融イノベーションの中でも最も顕著なものだったと言える。実際、米国市場に上場するETFの純資産総額は2019年2月に3.6兆ドルを突破、1998~2018年の間に年平均30.7%で成長してきた。上場ETF本数も一貫して増加しており、今年ついに2,000本を突破したが、実はETF資産の拡大成長トレンドは、本数に正比例する形で描かれてきたと言ってよい。

ETF本数増=資産流入という好循環は、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック)が運用するアイシェアーズ(iShares)が、1999年に50本弱のETFを一挙に運用開始・上場したことに端を発する。S&P500やダウ工業株30種など主要株価指数に連動するETF数本が、純資産額でもセカンダリー取引でも圧倒的なシェアを有していた寡占状態が一変、その後はファクター指数、セクター指数、地域・国指数ごとに何十本というETFを組成するというアイシェアーズの「多品種戦略」が大きな潮流となった。この間、ETFの活用法と投資家層も多様化したことを受けて、バンガードなど多くの運用会社がETF事業を強化、プロダクト面では債券ETF、コモディティETFなどアセットクラスの多様化を経て、レバレッジ・インバース型、アクティブ型なども開発されることとなった。現在も、上記のノントランスペアレント型に加え、ビットコインETFが構想されるなど、ETFの多様化・新規開発は止まるところを知らない状況だが、インターネットを使ったサービスやスマートフォンで使うアプリなどと同じように、既存のプロダクトの価値を代替するだけでなく、ユーザーにとっての新しい体験・価値を創出するイノベーションが進展していると見るべきであろう。

ETFと同様に、21世紀に爆発的な普及を遂げたのが、米国におけるターゲットデートファンド(TDF。ターゲット・イヤー・ファンドとも呼ばれる)である。2018年末のTDFの純資産総額は約1.1兆ドルで、ETFの3分の1に満たない水準だが、1998~2018年の伸び率は年平均32.4%とETFをも凌駕する高い成長を続けてきた。TDFの本質は「アセットアロケーションの長期調整モデル(目標年次に向かって徐々に調整)付きファンド・オブ・ファンズ」だが、TDFの普及・拡大の潮流を生み出したのは年金制度改革である。

2006年、当時のジョージ・W・ブッシュ政権は、確定拠出型(DC)年金において十分な積立を確保するための拠出義務の強化や拠出率の自動引き上げなどを盛り込んだ「年金保護法」を成立させた。関連規則の中では、DC年金加入者が自分の口座の運用指図を行わない場合の投資先(デフォルト商品)として、元本割れの可能性があったとしても長期運用にふさわしい商品を設定することが事業主に求められることとなり、もともとフィデリティ・インベストメンツが開発したTDFへの新規参入の続出とDCプランのTDF採用増加の大きなきっかけとなった。そもそも2006年年金保護法における改革には、行動ファイナンスの研究成果が取り入れられたと言われているが、TDFもアカデミックな研究と政策・実務が連携したことで、ユーザー(DC加入者)に新しい価値が生み出された例と言えよう。

金融危機や規制強化、世界経済の長期停滞が叫ばれる中、伝統的な銀行・証券・資産運用業からはイノベーションなど起きない、それどころか新しい技術とプレイヤーに破壊されてしまうだろう、との声も多くなっているが、米国のETFとTDFのように、長寿化・デジタル化する社会とユーザーに求められる金融イノベーションを推進することが、すべての金融プロフェッショナルの使命といえるのではないだろうか。

[参考文献]
  • ・岡田功太「米国 ETF の生態系を巡る議論」『野村資本市場クォータリー』2017年春号
  • ・関雄太「個人投資家の資産運用への活用がすすむ米国ETF」『野村資本市場クォータリー』2005年夏号
  • ・関雄太「コモディティETFの開発と米国ETF市場の多様化」『野村資本市場クォータリー』2005年秋号
  • ・野村亜紀子「米国401(k)プランのデフォルト(初期設定)商品に関する規則改正」『野村資本市場クォータリー』2008年冬号 など

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