2019~21年度の経済見通し
-外需環境悪化は内需に波及するか?-

論文2019年8月19日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴

目次

  1. I.日本経済:外需環境悪化は内需に波及するか?
    1. 内需堅調継続がメインシナリオだが消費、設備投資の下振れリスク増大
    2. 輸出はしばらく底這いが続くと予想
    3. 鉱工業生産の持ち直しは2020年度から
    4. 製造業・非製造業ともに企業の設備投資姿勢は慎重化
    5. 景気減速だが労働需給の緩慢なタイト化が続くと予想
    6. 消費増税目前、消費は均せば低めの伸びを継続
    7. 住宅着工は消費増税前の駆け込みから反動減のフェーズへ
    8. 公共投資は当面景気を下支え、21年度には減少へ
    9. エネルギー主導のインフレ率低下が続く
    10. 手詰まり感強い日本銀行の金融政策
    11. 日本経済見通し
    12. 世界経済見通し
  2. II.米国経済:「保険」としての利下げ実施へ
  3. III.ユーロ圏経済:再び政策緩和へ
  4. IV.英国経済:合意なし離脱のリスクが高まる
  5. V.中国経済:最悪期はまだ先

要約と結論

  1. 8月9日の19年4-6月期GDP1次速報値公表を受け、19~21年度の経済見通しを改定した。改定後の実質GDP成長率予測値は、19~21年度につきそれぞれ前年比+0.7%、+0.3%、+0.6%である。前回見通し(7月8日時点)と比べ、19年前半の実績値が上ぶれた影響から19年度が0.6ppt上方修正となるのに対し、20年度は0.2ppt下方修正となる。なお、約3000億ドルの中国製品に対する米国の追加関税については、野村では既に予測に織り込んでいるため(但し、10%ではなく25%での賦課を前提に)、今回の見通し改定には大きくは影響していない。
  2. 今後の国内景気動向を占うポイントの一つは、米中貿易摩擦激化等の外需を巡る環境悪化が、設備投資や雇用の調整を通じ民間内需に波及するかどうかである。野村のメインシナリオでは、人口動態を要因とする構造的な人手不足を背景に、本格的な雇用調整は回避されるとともに、省力化、効率化に向けた取り組みが設備投資需要を下支えするとみている。ただ、日銀短観の設備投資計画、新規求人等の雇用先行指標に減速もみられることから、従来と比べ、内需の下振れリスクは増大していると考えざるを得ないだろう。
  3. 本格的な内需底割れが回避できたとしても、物価上昇のモメンタムは弱い状態が持続するとみている。海外経済減速の影響が国際商品市況を下押しする公算が大きい他、国内企業の価格転嫁抑制の動きが根強いと考えられるためである。19~21年度の消費者物価(生鮮食品を除く。消費増税・教育無償化の影響含む)上昇率は、それぞれ前年比+0.5%、+0.2%、+0.4%と、概ねゼロ%台半ばでの低迷状態が持続すると予想する。
  4. 海外経済発の景気下振れ懸念に加え、消費増税に伴う国内消費下押し懸念への対応として、政府は、公共事業拡大に加え家計所得・支出に働きかけるような財政支出拡大策を経済対策として講ずる可能性が高い。海外経済減速懸念に起因するリスク回避的な円高進行リスクに対しては、日本銀行による追加金融緩和期待も根強い。ただ、追加緩和策が極めて限定され、また大規模緩和の副作用も意識される下、日銀の対応は、政府による財政拡大に呼応した国債買入れ再増額など受動的なものに留まる公算が大きいだろう。