快走するハイブリッド車、その背景と持つ意義

編集者の目2019年8月28日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

トヨタ自動車のハイブリッド車が快走し、世界販売を大きく伸ばしている。2018年にトヨタ自動車が世界で販売したハイブリッド車は164万台。3年前の15年と比べ36%増加している。野村の自動車アナリストによると、快走はしばらく続く見通しで、19年は203万台、20年は238万台、21年は274万台と予想されている。牽引役は、普及が進んだ日本や大型SUV(スポーツ用多目的車)の人気が高い北米ではなく、欧州と中国等その他地域で、21年予想を18年と比べると、欧州が43万台、その他地域が35万台増加する見通しで、増加寄与は欧州が39%、その他地域が32%を占める。もちろん、上記数字はトヨタ自動車のみの販売台数であり、他社を含めるともっと大きくなる。18年のハイブリッド車(プラグインハイブリッド車含む)の世界総販売台数は301万台、これが21年には972万台と予想されている。

それでは、この快走の背景は何か。第1はガソリンエンジンと電気モーターの併用による低燃費だろう。ガソリンの消費量が減り、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の排出量が少なく、地球環境に優しい点が消費者に評価されている。特に、環境規制が厳しくなった欧州で、不正問題で消費者離れが顕著なディーゼル車に代わり、普及に拍車がかかっている。第2はガソリンスタンド等のインフラの心配がないことだ。EV(電気自動車)は確かに走行中のCO2の排出がなく(正確には石油、天然ガス等で電気を作る際にCO2を排出しているが、車からはCO2は出ない)、人口密度が高く排気ガス問題が深刻な北京や上海等での普及が進むが、充電スタンドの少なさは依然ネックである。第3はトヨタ自動車が関連特許を無償で公開したことで、他社のハイブリッド車の販売がこれから大きく増えていこう。特に、欧州、中国等での増加が期待できそうだ。21年に972万台まで販売台数が伸びると、世界で販売される車の10台に1台がハイブリッド車になる。画期的なことと言って良いだろう。

さて、このハイブリッド車での成功は、何をトヨタ自動車や日本の自動車産業にもたらすのか、第1は車の電動化競争で優位を築けることだろう。現在、自動車産業は100年に1度と言われる変革期にある。CASE、すなわち、コネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)の4つでし烈な競争が行われているが、日本は電動化競争では優位にあるだろう。もちろん、EVではテスラ等の成長があるが、当初期待されたほどの高成長とはなっていない。バッテリーの寿命が短く、その割に価格が高いといった弱点がなお十分克服されていないことが関係していよう。EV重視の中国もEVに加え、ハイブリッド車を環境車に加え、普及に力を入れ始めているのは幸いだ。

第2は自動車産業という基幹産業の強みが維持されることの安心感だろう。具体的には、日米通商協議で米通商拡大法232条に基づく25%の制裁関税を回避するために、日本からの米国向け自動車輸出を18年の約170万台から徐々に減らすとしても、欧州向け等へのハイブリッド車輸出を拡大することで、国内生産の維持が可能となることである。もし、欧州等でのハイブリッド車の販売増、日本からの輸出増が見込めなければ、米国向け輸出の減少は国内生産の減少に直結するだろう。これを避けられるのは大きな意義がある。実際、ドイツ経済と日本経済を比較するとこのことははっきりする。製造業PMI(購買担当者指数)速報値は直近の8月でドイツ43.6、日本49.5と日本は好不況の分岐点である50を若干下回る程度だが、ドイツは大きく下回っている。これには中国向けの輸出とディーゼル車の不振等でドイツ自動車産業の生産縮小が影響しているのである。電動化競争で日本勢が優位を築き、将来にわたってこれを維持できれば、マクロ経済にもプラスをもたらしうるのである。

手数料等やリスクに関する説明はこちらをご覧ください。