成長を続ける米国REIT市場の変容と市場メカニズム

編集者の目2019年9月30日

野村資本市場研究所 執行役員 関 雄太

米国における上場REIT(不動産投資信託)市場が拡大を続けている。米国で株価・債券金利が低下した2019年8月にも指数(FTSE NAREIT All Equity REIT Index)は史上最高値を更新、エクイティREITの市場時価総額は1.2兆ドルを突破した(J-REIT市場には存在しないモーゲージREITの時価総額を合わせると1.3兆ドルを超える)i

リーマン・ショック直後の2008年末の市場規模(約1,762億ドル)から、実に7倍に拡大したことになる。しかし、同じ期間に不動産市場の需要を示す人口やオフィスワーカー数、小売販売額などがここまで拡大したわけではない。REIT市場の成長拡大を牽引したのは、REIT自体の変容あるいは金融・資本市場の構造変化であった可能性が高い。

特に下記の4つの要因は、日本との違いとしても注目されよう。

第1に、REIT市場におけるアセットクラスの多様化である。日本で主力となっているオフィスREITの場合、米国ではサブセクターとしての時価総額シェアは全体のわずか8%であり、同様にリテール(小売・商業)REITは13%、レジデンシャル(賃貸住宅)REITは15%を占めるに過ぎない。実際、近年の米国REITの成長は、非伝統的なサブセクターの拡大によって支えられてきた。まず、2000年以降はホテルREITなど、ロケーションやハードウェア以上にオペレーターの質が重要となるアセットクラスが注目された。特に拡大したのは、シニア住宅や介護施設などを保有するヘルスケアREITである。また最近5年ほどで急成長しているのが、無線通信基地局を保有するアメリカン・タワーやクラウン・キャッスル・インターナショナル、あるいはデータセンターを保有するエクイニクスなど、デジタルREITとでも呼ぶべき銘柄群である。伝統的な不動産業にとっては逆風にも見える高齢化やデジタル化といった経済構造変化すら、REIT市場成長の原動力になっているということができる。

第2に、柔軟な制度変更である。投資信託法によって設立・投資対象などが厳格に規定されるJ-REIT制度とは異なり、米国REITは税法(内国歳入法)上の要件により法人所得税を免除される不動産保有会社という制度的な建付けをとっている。この課税免除要件が2000年前後からたびたび変更されており、REITの投資対象不動産と関係会社を通じて運営可能な事業範囲が広がっている。背景には、内国歳入法を管轄する内国歳入庁が、REITの免税要件を広げても投資家レベルで課税すればよいという考え方を持っていることが推測されるが、いずれにせよ、新しいREITが成長するきっかけの多くは、税務当局が創ってきたといってよい。

第3に、投資家層の多様化である。米国には、日本のように投資主体別保有状況を示す市場統計がないが、残高20兆ドルを突破した国内投資信託(ミューチュアルファンド)は、REITの最大投資家層を形成していると考えられる。逆に言えば、米国の有力ファンドマネージャーを納得させる戦略を打ち出せば、新しいアセットクラスでも公募増資を通じ成長が可能という関係になっている。さらに、欧州・日本など海外の投資信託や一部の機関投資家も、米国REITを重要な投資対象としている。セクターとしては安定したリターンと他資産との分散効果(低相関)があり、各サブセクターにおいて高い収益性や成長性を持つ個別銘柄を見出すことも可能というREIT市場の特性が、最終投資家が高齢化している先進諸国のファンドマネージャーを惹きつけている。

第4に、M&A(合併・買収)や課税法人化(REITから普通法人への転換)などを通じた合従連衡と淘汰が活発である点である。上場REITのガバナンスに対して資本市場の規律が働きやすいことと、私募不動産ファンド市場など他の「不動産資本市場」との裁定も盛んに行われることで、ファンダメンタルズから大きく乖離した企業評価が長期間続くことはなくなり、極端なバブル発生の可能性も抑制されていると考えられよう。

筆者にはかつて、J-REIT市場拡大のための方策を検討する業界関係者の研究会に参画した経験があるii。その際にも、米国REIT市場拡大の経緯が参考にされた。現在、時価総額では史上最高更新が続いているJ-REIT市場だが、経済・社会構造変化の中でどのようにREITを活用していくかという観点では、米国REITの変容と市場メカニズムに学べることはまだまだ多いといえよう。

  1. i商業用不動産の所有権を有するREITをエクイティREITと呼ぶ。不動産担保ローン債権を有するのがモーゲージREIT。
  2. ii筆者は、一般社団法人不動産証券化協会が実施した「Jリート市場拡大策と東京市場のアジア拠点化に関する研究会」にコーディネーターとして参加し報告書(2012年3月)執筆に携わった。

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