深刻化する景気低迷、ドイツは何を間違えたのか

編集者の目2019年10月1日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津政信

ドイツの景気低迷が深刻化している。2019年9月のドイツ製造業PMI(購買担当者指数)速報値は41.4まで低下、2009年6月以来10年3か月ぶりの低さになった。加えて、製造業の低迷がサービス産業にも波及し、サービス業のPMIも9月は52.5と8月から2.3ポイント低下した。おそらく、実質GDP(国内総生産)は2019年4~6月期に続き、7~9月期も前期比マイナス成長となり、2四半期連続マイナス成長で景気後退となる可能性が高まっている。また、少し時間軸を延ばしてみても、この1年余りほとんどドイツ経済は成長していないことが判る。ここまで景気低迷が深刻化するともはや循環的な話しではすまされない。ドイツはいったい何を間違えたのか。

第一は過度な中国依存であろう。メルケル首相は毎年のようにドイツ経済界のトップをつれて中国詣でを繰り返し、商談獲得に取り組んできたが、米中貿易戦争の中で中国経済が悪化、これが裏目に出ている。ドイツの中国向け輸出は対GDP比で2.8%を占め、ユーロ圏の同比率1.5%、フランスの同比率0.9%と比べても突出して高い。

第二は世界最強とも言われたドイツ自動車産業が苦境にたっていることだ。2018年9月に導入された排ガス規制もあるが、フォルクスワーゲンのディーゼル不正が大きく影響していよう。ドイツ国内販売の落ち込みは一巡しつつあるが、自動車生産の70%を占める自動車輸出がEU(欧州連合)向け中心に前年比二桁の減少を続けている。ドイツの自動車産業はデザイン、高速性能などに製品開発の重点を置き、環境対策はディーゼル一本やりで、HV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)などの電動車開発で出遅れてきた。この修正には時間がかかる。中期的にも苦戦が続こう。

第三はドイツ銀行の失敗だ。ドイツ最大のドイツ銀行は商業銀行部門中心にかつては高い競争力を誇っていたが、ECB(欧州中央銀行)のマイナス金利政策の悪影響に加え、投資銀行部門のリストラの遅れが響き、今や欧米主要銀行内でも最も収益性の低い銀行の一つになっている。間接金融の比率が高いドイツ経済にとって、なおしばらく足かせになるだろう。

第四はエネルギー政策の失敗だろう。2011年3月の東日本大震災の直後、メルケル首相は原子力発電ゼロを宣言、太陽光、風力の自然エネルギー重視に舵を切り、世界中から喝采を浴びたが、結局、自然エネルギーの不安定性を補うため、火力発電を増やさざるを得ず、電力料金の引き上げに繋がっている。1キロワット時40円以上の電力価格は世界でももっとも高い部類に入る。国民からの批判も高い。

第五は難民政策の失敗もあろう。メルケル政権は2015年以降、中東、北アフリカ等からの難民を150万人以上受け入れてきた。難民受け入れそのものは美談かもしれないが、いかんせん数が多すぎた。ドイツの総人口は約8,000万人。その約2%に当たる難民をわずか2~3年で受け入れたのは行き過ぎだろう。製造業の現場で混乱が生じているとの見方がある。

それでは、ドイツはこの苦境をどう乗り切ったら良いのか。短期的には、内需拡大政策を打つ事だろう。ドイツ経済の輸出依存度はGDP比50%と韓国並みに高い。所得減税、公共投資拡大などにより、個人消費、インフラ投資を増やすことが望まれる。G7(主要7カ国・地域)の中で唯一財政収支が黒字のドイツには財政余力がある。いまこそ財政政策を活用する時期だろう。長期的には政権交代を行い、政策の修正を行う事だろう。中国への過度な傾斜、エネルギー政策や難民政策の行き過ぎはメルケル政権が推進してきたことだ。こうしたことにドイツ国民も選挙で声を上げ始めている。選挙で負けても首相の座にメルケル氏がとどまる光景は良いものではない。

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