2019~21年度の経済見通し
-見えはじめた減速局面の出口-

論文2019年11月21日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、高島 雄貴、新井 真

目次

  1. I.日本経済:見えはじめた減速局面の出口
    1. 堅調な内需に支えられ景気底割れ回避、輸出回復も視野に
    2. 輸出は年明けに増加基調へ、ただし世界景気の不確実性高い
    3. 鉱工業生産は停滞継続、増税後の個人消費が鍵
    4. 設備投資は従来想定より早く立ち直り始めると予想
    5. 雇用の先行指標は悪化したが、底堅い推移を見込む
    6. 個人消費は反動減が見込まれるが均せば低調な伸びを継続
    7. 住宅着工は反動減で落ち込んだ後、緩やかな減少トレンドへ回帰を見込む
    8. 政府経済対策で20年度も公共投資増加
    9. 消費増税後もインフレ率は低空飛行継続を見込む
    10. 日銀は追加金融緩和回避、ただし正常化も時期尚早
    11. 日本経済見通し
    12. 世界経済見通し
  2. II.米国経済:待機状態
  3. III.ユーロ圏経済:マイナス金利深掘りへ
  4. IV.英国経済:財政規律抜きの総選挙実施へ
  5. V.中国経済:インフレ上昇が新たなリスクに

要約と結論

  1. 11月14日公表の2019年7-9月期GDP1次速報値を踏まえ、日本経済見通しを改定した。実質GDP成長率予測値は、19~21年度についてそれぞれ前年比+0.6%、+0.3%、+0.5%である。前回見通し(9月9日)と比べ、19年度が0.1ppt上方修正、20年度が不変、21年度が0.1ppt下方修正となる。
  2. 足元、輸出環境に改善の兆しがみられる。ICT(情報通信技術)関連財では、在庫調整終息が確認され始めた。米中貿易協議も合意に向け前進しているとみられる。野村では、12月15日に予定される米国による対中制裁関税第4弾の残余部分の発動は先送りされるとみている。米国や中国経済の減速基調が20年年央まで続く可能性があるため、輸出回復が鮮明になるのは20年年末以降と予想するが、輸出は減速局面を概ね脱しつつあると考えられる。
  3. 実質企業設備投資は、野村の想定を上回る堅調な推移を続けており、今回、19、20年度の前年比伸び率を上方修正した。7-9月期GDP1次速報段階では、10月からの消費増税に伴う駆け込み消費は比較的小規模であった。一方、増税影響の軽減策に用いられるキャッシュレス決済の普及は想定より進んでいる模様である。我々は、増税後の反動減及び増税による実質所得の減少効果で、消費の基調が腰折れる可能性は引き続き低いと判断している。
  4. 前提となるドル円相場が前回比円安方向に、原油相場前提が同原油高方向に変更されたことから、インフレ見通しには前回比で上方バイアスが生じる。19~21年度のコア(除く生鮮食品、消費増税・教育無償化の影響含む)消費者物価上昇率は、それぞれ前年比+0.5%、+0.4%、+0.5%を予想する。
  5. ドル円相場の円安化や輸出環境改善の兆候は、日本銀行による追加金融緩和の必要性を低下させているとみられる。一方、ゼロ%台半ばでのコアインフレ率の推移を前提とすると、金融政策正常化の開始は時期尚早との判断となろう。金融政策が事実上、変化のない無風状態となる中、消費増税後の景気腰折れ回避に万全を期す狙いもあり、公共事業を中心に比較的手厚い財政政策による支援が続くことが想定される。