底打ちする半導体サイクル、マクロ的含意も重要
編集者の目2019年11月26日
野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信
ここに来て、半導体関連企業の好決算が注目されている。最初に注目を集めたのは、10月17日に2019年7-9月期決算を発表した台湾セミコンダクター(TSMC)であった。TSMCの7-9月期の営業利益は前年同期比13%増益と5四半期ぶりに増益に転じ、過去最高を更新した。けん引役はアップル、クアルコム、ハイシリコン(中国通信機器大手ファーウエイの半導体子会社)、AMDの主要顧客4社で、このうちアップル、クアルコム、ハイシリコン向け売上増は次世代高速通信「5G」関連である。同時に、19年12月期と20年12月期の設備投資計画を従来計画(110億ドル強)から140-150億ドルまで引き上げ、これも大いに注目された。次いで、米インテルが10月24日引け後に発表した19年7-9月期決算でも、売上高がガイダンスを大幅に上回り、四半期としては過去最高となり、その要因がデータセンター向け半導体の好調と伝えられ、株価も大幅高となった。10月25日から11月21日までの1か月弱で、株価は11.5%の上昇となっている。
このように、5G用基地局投資や5G対応スマートフォンの製品開発の活発化、一時低迷していたデータセンター投資の本格再開がはっきりし、ロジック半導体を先導役に半導体サイクルは底打ち、回復の動きとなってきた。次の焦点は、NANDフラッシュ、DRAMといったメモリー半導体の需要動向だが、データセンター向け需要の回復に加え、PC用の記憶媒体で競合するHDDの在庫が大幅に減少したため、SSDの需要が急回復したことで、増加に転じたとみて良さそうだ。NANDフラッシュの市況回復が続けば、20年に入ると、三星電子、キオクシア(旧東芝メモリ)のNANDフラッシュ投資が再開されよう。DRAMはなお生産調整中だが、在庫調整は進みつつあり、20年4-6月には市況回復が期待できそうだ。20年後半には三星電子やSKハイニックスのDRAM投資が再開される可能性がある。一方、ソニーのCMOSイメージセンサーはスマートフォンに搭載されるカメラの多眼化・大判化の流れを受け好調が続いている。生産能力の増強を図るため、20年3月期の設備投資は前期比2倍増が計画されている。
さて、半導体サイクルの回復はマクロ経済にどういった影響を与えるのか。結論から述べると、半導体産業の規模拡大につれ、その影響は年々大きくなってきているとみて良いだろう。WSTS(World Semiconductor Trade Statistics:世界半導体市場統計)によると、18年の世界半導体市場規模は4,687億ドル(1ドル=110円換算で51兆5,500億円)、09年の世界半導体市場規模は2,263億ドルであったので、9年間で倍増している。また、ガートナーによると、半導体ユーザーである世界のIT産業の市場規模は18年で3兆6,500億ドル(1ドル=110円換算で401兆円)である。今や自動車産業を抜き、最大の産業規模となっているとみて良いだろう。中でも、データセンターは半導体需要のけん引役であるし、IT(情報技術)サービスの成長の裏に半導体の進化があることは疑いがない。こうして、半導体、電子デバイスの需給変動がマクロ経済へ与える影響は大きく、そうした中で、日本の電子部品・デバイス工業の出荷-在庫バランス(出荷前年比-在庫前年比)が世界の半導体出荷、さらに、世界の製造業景気の先行指標となっていることも知られるところだ。すでに、日本の電子部品・デバイス工業の出荷-在庫バランスは足下、プラス圏に動いてきている。米中の通商摩擦等にも留意を怠れないが、そう遠くないうちに、世界の製造業景気が底打ちをしてくる可能性は高そうだ。
これは半導体・電子部品、半導体製造装置、関連FA(工場自動化)機器の利益・時価総額が相対的に大きい日本株にプラスであると同時に、米製造業景気の底入れ、回復につながると、米長期金利の上昇とドル高・円安を通じ、自動車株などの為替敏感株にもプラスとなろう。一方、長期金利の上昇は米国株の上昇スピードに多少ブレーキをかける可能性があるが、20年秋の大統領選挙前にFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げスタンスに転じることは物価予測、政治動向等から見て考えにくい。長期金利の大幅上昇が米国株、世界株の調整を促すのは仮にあるとしても、1年以上先であり、半年から1年の時間軸では日米株に強気スタンスを維持するのが賢明だろう。