長期投資に堪えられる日本株、今こそ必要な投資教育

編集者の目2019年12月27日

野村證券金融経済研究所 シニア・リサーチ・フェロー 海津 政信

アベノミクスが始まって7年が経過した。就業者数(季節調整値)は2012年12月の6,263万人から19年11月の6,769万人へと506万人増え、企業収益の拡大とPER(株価収益率)等のバリュエーションの適正化を背景に、TOPIX(東証株価指数)は12年12月末の860ポイントから19年12月26日の1,731ポイントへ2.0倍、日経平均株価は12年12月末の10,395円から19年12月26日の23,925円へと2.3倍となった。長期政権の緩みが指摘される昨今ではあるが、安倍政権の支持率が若い世代中心に引き続き高いのはこの2つの数字を見れば、理解できるだろう。

ここでは株価上昇の分析を行い、背景を考えてみたい。まず、企業収益だが、ラッセル/野村大型株ユニバース(333社)の連結経常利益は12年度には26.5兆円に過ぎなかったが、18年度には48.2兆円へと増加した。景気回復、為替の円安等経営環境の好転に加え、コーポレートガバナンス改革が機能し、事業の選択と集中等が進んだことも利益の押し上げに寄与していよう。12月26日時点の野村予想経常利益は、19年度は世界景気の減速から46.7兆円へと小幅に減益となりそうだが、20年度は世界景気の持ち直しと半導体サイクルの好転もあり、50.4兆円と増益予想である。20年度予想を12年度実績と比べると1.9倍であり、この間の2倍を越える株価上昇の相当部分は利益の増加に理由があると理解されよう。

一方、バリュエーションはどうか。ここでは野村予想1年後TOPIX-PERで見てみるが、12年10-11月の12~13倍、12年12月の14.0倍から19年12月の15.0倍に適正化していることがみてとれる。12年10-11月は民主党政権下でのデフレマインドが強かった時期、12年12月にはアベノミクス期待で予想PERは適正化に向かい始めたが、まだ十分な評価ではなかった。これが今日15.0倍まで適正化が進んだのには、アベノミクスの成果が浸透したことに加え、19年に大きく進展した企業による自社株買いの動きが関係していよう。自社株購入額は18年で5.7兆円だが、19年には7.5兆円へと増加した見込みで、株式需給の改善を通じ、バリュエーションの適正化に貢献していよう。

さて、今後の株価見通しだが、日本企業の利益成長力を考えてみよう。まず、過去実績を見てみる。ラッセル/野村大型株ユニバースの連結経常利益は、IT(情報技術)バブルのピークだった2000年度と18年度を比べると年5.3%の成長、また、リーマンショック前のピークである07年度と18年度を比べると、年2.8%の成長である。リーマンショック後の谷は深く、その谷を挟む年2.8%成長を実力と見るのは厳しすぎよう。一方、2000年との比較での年5.3%成長はWTO(世界貿易機関)加盟後の中国経済の高成長を考えるとやや高めに出ている可能性がある。その意味では、その中間の年4.0%成長が妥当ではないかと判断される。

次いで、主要産業の中長期見通しを点検してみよう。まず自動車だが、世界の販売台数は年2%程度伸びるとみられる。また、競争力のカギはCO2規制で、HV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)、水素を使った燃料電池車を市場に投入しているトヨタ自動車を中心に日本勢が最も競争力を持っていると見て良い。もちろん自動運転への対応も長期的には大事だが、危機感をもって対応しているので劣後するとも思えない。中立ではないか。産業平均の年4%程度の利益成長力はあると見る。エレクトロニクスはどうか。年2桁の利益成長は難しいだろうが、1桁後半の伸びは期待できるだろう。ソニーや日立製作所の事業の選択と集中は本格的であるし、村田製作所やTDK等の電子部品は5G(第5世代移動体通信)の基地局、自動車の電子化・電動化に支えられ成長を続けよう。また、東京エレクトロン等の半導体製造装置も世界のIT関連ビジネスの基盤を担う半導体とともに成長力は豊かだろう。

非製造業も、小売りはファーストリテイリング等専門店中心にアジアでの成長が期待できる。通信・インターネットは5GやIoT(モノのインターネット)の普及を通じ高い成長が見込める。建設、住宅・不動産も20年の東京オリンピック・パラリンピック終了後も都市再開発需要は多く、かつ米国、豪州等での住宅・不動産事業が利益に貢献しよう。住友林業がセグメント利益の3割強を海外事業で稼ぐ等、国内の成熟には既に手を打っている会社が多い。

加えて自社株買いが見込める。これは19年6月の編集者の目で述べているが、25年度には14.2兆円、PER14倍で計算される時価総額の1.8%相当(18年度実績は1.0%)が行われる可能性がある。連結経常利益が年4%成長、これに自社株買いによる株数の減少が控えめに見ても年1.5%、合わせてEPS(一株当たり利益)が年5.5%伸びると予想しうる。ちなみに、野村アナリストがみるEPS成長は年5%ほどである。米国企業のEPS成長力年7%には叶わないが、年5.5%は十分ありうるものだろう。こうみると、28年度には日経平均株価は過去最高値の38,000円台に到達しうると計算される。配当利回りは市場平均で国債利回りを大きく上回る2%台。4~5%の配当利回りの株式も多数ある。

このように、日本の株式市場は長期投資に堪えられる市場になってきた。まさに、貯蓄から投資を幅広く実践することが次の課題であろう。その際の要諦は金融経済教育、投資教育を根付かせることだ。まずは若手社会人・大学生、高校生に金融リテラシー、株式投資の意義を理解してもらうことが肝要だろう。すなわち、景気の動向、金利の動き、インフレ・デフレ、為替の動きが金融商品の価格、実質価値に及ぼす影響について理解してもらう必要がある。そして、株式のリターンの源泉が企業の稼ぎ出す利益にあり、利益成長や利益から分配される配当にあることを理解してもらうことが欠かせない。また、財務リスク、収益変動リスクについても理解する必要があるだろう。その上で、分散投資、長期投資等の投資スタイルを学び、株式ポートフォリオを作る。どう啓蒙するか、真剣な議論が必要だろう。

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