2019~21年度の経済見通し
-後ずれリスクに直面する景気回復-

論文2020年2月21日

野村證券金融経済研究所 経済調査部 美和 卓、桑原 真樹、岡崎 康平、棚橋 研悟、髙島 雄貴、新井 真、水門 善之、柳井 都古杜

目次

日本経済:後ずれリスクに直面する景気回復

  1. (1)総括
  2. (2)輸出は19年度下方修正、20年度は反発見込み
  3. (3)鉱工業生産は2期連続での減少へ
  4. (4)設備投資は緩やかな成長基調だが20年度の停滞感強いと予想
  5. (5)雇用は堅調、先行きは前年割れを回避しながらも減速
  6. (6)個人消費の回復には時間を要する
  7. (7)消費増税後の反動減に加え貸家需要の弱含みが継続
  8. (8)景気対策により20年度公共投資は大きく増加
  9. (9)インフレ鈍化局面は終盤だが0%半ばでの推移を予想
  10. (10)追加金融緩和の可能性は低い
    1. (補論)携帯電話位置情報を用いた経済活動分析
  11. (11)日本経済見通し
  12. (12)世界経済見通し

米国経済:待機状態が続くが途中に小幅な振れも

ユーロ圏経済:ECBの戦略見直し

英国経済:上振れ、下振れ双方のリスクがバランス

中国経済:新型コロナウイルスの影響

要約と結論

  1. 2月17日公表の19年10-12月期GDP(国内総生産)1次速報値を踏まえ、2019~21年度の日本経済見通しを改定した。見通し改定には新型肺炎の影響(後述)も加味している。新しい実質GDP成長率予測値は、19~21年度につきそれぞれ前年比+0.1%、+0.3%、+0.4%である。
  2. コロナウイルス(COVID-19)起因の新型肺炎拡大の影響は、中国主要都市の閉鎖が2月末まで継続することを前提とする野村グローバルチームのベースシナリオに基づくと、従来見通しに対し実質GDP(水準)を20年1-3月期に1.0ppt、20暦年通年で0.1ppt押し下げると予測する。1-3月期への影響の太宗は、1)インバウンド訪日客・同消費減少(前期比40%減を想定)、2)対中輸出減少(同10%減を想定)により実質輸出に現れるが、実質設備投資にもその一部が波及し、海外旅行減、レジャー自粛などを通じ実質消費にも軽微な影響が及ぶとみる。一方、4-9月期には反動増を見込んでいる。
  3. 野村では、IT(情報技術)関連産業の在庫調整終了を起点に、内外景気は19年年央には循環的に底入れしたとみている。ただ、新型肺炎以外にも回復の阻害要因が散見される。国内設備投資は、主に非製造業の省力化需要の強さを背景に底堅く推移するとみているが、内外製造業の設備投資意欲には弱さがみられ、底入れ後の実質輸出の回復力にも影響する恐れがある。乗用車販売の低迷、消費者心理悪化など、消費増税後の消費の基調低下に繋がる不安材料も存在する。これらを踏まえると、新型肺炎終息後も、景気の力強い加速を想定するのは困難であろう。
  4. 景気回復の足取りの鈍さは、新型肺炎の影響を受けた足元の原油市況下落と相まって、物価上昇の勢いを弱める可能性が高い。コア消費者物価(生鮮食品を除き、消費増税・教育無償化の影響を含む全国総合)上昇率は、19~21年度につき、それぞれ前年比+0.6%、+0.4%、+0.4%と、ゼロ%台半ばでの低迷が続くと予想する。
  5. 新型肺炎の影響が野村想定通りに終息に向かう前提では、1)19年12月発表の経済対策が東京オリンピック・パラリンピック後の景気下支えに対する手当を含んでいること、2)追加金融緩和手段が限定される一方、ドル円レートが安定的に推移しており、追加緩和の必要性が低いことから、新型肺炎を念頭に置いた政策対応追加は織り込んでいない。